BASARA話
□きみのかほり
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がさり、がさり・・・
「佐助、何をしているのだ?」
「旦那こそ何してるの。」
佐助はむしろに広げていた野草をかき集めていた。
そして幸村は上田城の石垣に登って夕日を見ていた。
「いや、な?夕日を見ていて思ったのだ。あの山の向こうの民は、上田より多く日を拝めるのだろうか・・・と。」
最近めっきり日が短くなったからな、と、夕日に向かって呟く幸村をちらりと見ては、すぐに野草に視線を戻した。
がさり、がさり、
ぷちり、ぷちり、
「あ、そうか。旦那は行ったこと無かったんだっけ。」
そう言いながら、まとめていた野草の根っこと茎の部分をちぎり分ける。
「あの山の向こうは松本平っていうところでね。・・・そうだなぁ、山があって、平野があって・・・ってのは、上田と似てるかもなぁ。」
ぷちり、ぷちり、
「ただね、お日さんが沈む方に、とてつもなく高い山があるんだ。」
ぷちり、ぷちり、
「寒くなったと思ったら、もう山の上は雪で真っ白なんだよ。今年はもう降ったみたいだよ。」
「そうか。」
いつの間にか石垣から飛び降りた幸村も、暇に任せて根っこを取り始めてる。
「だから、あの山の向こうの民も、旦那と同じ事考えているって、事!」
気付けば沢山あったはずの野草は全て根っこと茎に分けられて。
佐助は、ありがとね、と笑みを浮かべて、根っこ掴んでを籠に放り込んだ。
「ところで、これは何なのだ?」
根っこは全て片付けられて、今は良く乾かされた花と茎の部分が山を成している。
「二輪草だよ。夏に太郎山で取ってきたやつ。」
佐助は乾いた花をくるくる回して弄ぶ。
「根っこは節の痛みに効くんだ。寒くなってきたからね、里やお城のじぃ様たちに飲ませようと思ってたんだけど・・・」
佐助が先日、政宗に匂い袋を届けるべく、急きょ奥州に行ったとき。
その間に上田に雨が降った。
そして運悪く、倉に雨が入り込み折角干した草が湿ってしまったという。
「そうか、悪かったな。」
「旦那が謝ることじゃないでしょ。それに今日は晴れたからよく干せたし。・・・ほら行くよ?寒くなってきたでしょ。」
佐助は籠を抱えて立ち上がり、空いている手を幸村に差し出したが、幸村はただ佐助を見上げるだけだった。幸村の手元をみれば二輪草が握られていて。
「これは、いい匂いがするな。」
くんくんと花の匂いを嗅ぐ主の姿に、まるで仔犬の様だと、佐助が笑う。
「山に生えている時はもっといい匂いがするよ。さあ、もう行かないと!」
もう、辺りは暗くなり始めていて、もうじき侍女達も探しに来るだろう。
幸村は素直にそれに従った。
「いい匂いだ・・・。」
その声に、数歩先を歩く佐助が振り返った。
「気に入った?・・・じゃあ、夏になったら太郎山に連れていってあげるよ。採るの、手伝ってもらっちゃおうかなぁ〜」
「・・・本当に、良く香る。」
しばらく黙って二人で歩く。
幸村の手には、二輪草。
「ああ、いらした!」
「幸村様!お探し申し上げました。夕餉にございますよ。」
「さあさあ、お腹が空いたでしょう。」
数人の侍女達がパタパタと駆け寄ってきた。 ほら、言った通り・・と言わんばかりの表情で、早く行きなよと佐助がせかす。
「佐助は来ぬのか?」
「倉にこれをしまったら、すぐ行くよ。」
「早く来いよ?某、待っていられぬやもしれぬ。」
「はいはい。」
丁度良く、ぐう、という腹の音が鳴り響き、これには侍女たちもくすくす笑った。