BASARA話 

□私はただそれの味を聞きたかっただけなのよ。
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 小十郎はテーブルの上に投げ出された玩具らしき物を手に取り。

「なんだ?これは。」

と、呟いた。

「おまたせ〜。俺様ってば天才!小十郎さんの帰宅に合わせて焼き上げるなんて!」

その玩具を眺めていると、キッチンから佐助がやってきた。
手には焼きたての南瓜のグラタンを持って。

「Happy Halloween♪」

「…ああ。」

それは南瓜のマスコットが付いているが、女子社員が頭に着けてるようなソレで…

「可愛いでしょ?ハロウィン仕様のカチューシャ」

「カチューシャというのか。」

「突っ込むトコ、そこ??」

佐助の呆れた声に小十郎は苦笑した。
ハロウィンだという事は解っていたので純粋にアクセサリーの呼び方が気になっていたのだ。

「どうしたんだ?これ。」

「今日の現場でもらった。」

佐助はフリーカメラマンをしている。撮る被写体は色々だが、今日は大手の英会話スクールからの依頼でPR用に使う写真の撮影をしてきたという。

「子供達がさ、お姫様やら魔法使いに変装してて、『とりっくおあとりーと』って…」

そして食事をしながら今日の仕事の話を楽しそうにした。

「……だから俺様もこんなの着けてたワケ!」

カチューシャを持ちながら、恥ずかしかったんだよ〜と笑っている。

「そのわりには嫌がってる様にはみえねぇな。」

「ん…っ、しっ仕事だからねっ。子供達と同じ目線になってると、その子達のいい表情ってのがが解ってくるんだよ!」

頬を赤らめながらも垣間見るプロ意識。
フリーな故に、与えられた仕事はしっかりとこなす様は小十郎が好きな佐助の一面だ。

「そうか。」

ふ、と笑みを溢し、グラタンを口に運んだ。






「先に寝ててくれないか。」

まだ寝ないの?と、小十郎の自室に入ってきた佐助に小十郎はすまなそうに言う。

「政宗様に今日の会議の報告をメールしなきゃなんねぇんだ。。」

政宗様に…と言った瞬間、佐助の顔がひきつっていくのが判った。

「その『政宗様』は今なにしてんの?」

「…ハロウィンパーティーだが…」

「だよね?真田の旦那と散々騒いで、今頃きっとベッドの中だよね?」

「………」

「そんなの、明日会社で言っても同じじゃない?どうせ見やしないよ。」

その表情は呆れ顔にかわり、最後には、はぁとため息までついて。

「今日の仕事は今日中におわらせねぇと、気になっちまうんだ。」

すまない、と軽く頭を下げて謝れば、佐助はあーあ、と声をあげ、

「りょーかい。…そんな、社長に忠実で仕事熱心な所も、俺様の好きな小十郎さんの一部ですっ。」

そう言いながら、お休みなさいと言って寝室へと消えた。

「何でアイツは俺を喜ばせる事ばかり言いやがるんだ。」








しばらくして、コンコン、とノックする音が聞こえた。

「どうした?まだ起きてたのか?」

『……………』

ドアに向かって声をかけてみる。
佐助が何か言っているようだがよく聞き取れない。

小十郎は席を立ち、ドアノブに手をかけ開けようとした・・・瞬間、それは向こうから遮られた。

「佐助?…なにやってるんだ?」

そしてドアの向こうから返ってきたのは

『Trick or Treat?』

間違いなくそれはハロウィンの、子供達からかけられるあの言葉で。

「ははっ、子供たちの真似事か?・・・ああ、菓子ならあるぞ?今日政宗様から頂いたんだ。キッチンに置いてある。すまない、さっき気付いたんだ。」

ハロウィンだからと、有名洋菓子店のマカロンを秘書室の社員に配っていた。小十郎には、佐助にも・・・と余ったそれを箱ごとと、クッキーをデスクに置いていった。

『知ってるよ?』

「だったら食えよ。」

ドア越しの会話は続く。

「もうじき仕事も終わる。…ドアを開けてくれないか?」

『Trick or Treat?』

「…だから、キッチンに…」

そこでカチャリとドアが開いた。

「キッチンにはあるけど、今は持ってないでしょう?」

小十郎の心臓がどくりと跳ねた。

「Trick or Treat?」

そこに立っていた佐助の出で立ちは、小十郎の黒いシャツだけを羽織り後ろからは何か長いモノが垂れている。
頭には、先程見た南瓜のマスコットではなく、二本の小さな角。

「…?」

よく見れば後ろに垂れているモノの先端は尖矢の先のような。

「悪魔…か?」

「…ご名答。」

ニヤリと悪戯っぽく笑う様は、今の出で立ちにとても良く合っていて。

「こっちは自分で買って持って行ったんだけど…」

小十郎の視線はシャツから延びる白く細い足に釘付けとなる。

ごくりと喉が鳴った。

「あっちの方が可愛いからってスクールの人が……あっ、」

くれたんだ、と続くはずの言葉は小十郎の口づけで消えた。

「ちくしょう、ソソる恰好しやがって。」

そして佐助を抱き上げると寝室へ向かった。

少し乱暴にベッドに下ろせば、潤んだ視線で佐助が小十郎を見上げている。



「ああ、悪かったな。菓子を持っていなくて。
さて、この小悪魔は俺にどんな悪戯を仕掛けてくれるんだ?」

「あれぇ?小十郎さんは仕事なんじゃなかったの?」

おどけた声でそう返せば、

「そんな格好見せられて、仕事なんかできるか。」

そっと佐助の額にキスを落とし「It is a start of the party.」と、呟いた。






翌日の社長室。


「おはようございます、政宗様。」

「Goodmorning、小十郎」

「早速ですが、こちらが昨日の会議の内容となっております。資料として昨年度実績の……」

小十郎が話し始めると、ふわぁと大きな欠伸を一つ。
と、同時に小十郎の眉間に皺が寄った。

「…政宗様っ、私の話を聞いておいでですか!」

「ところでよ、小十郎。昨日のマカロンなんだが、あの店、もし今後発展しそうなら、伊達グループの傘下に入れたいと思っている。どうだ?猿にも食わせてみたか?」

どうやら同じ世代の者同士、流行りの菓子の評価を聞きたいらしい。

「申し訳ございません。まだ佐助は食べていないのです。」

「Huu…また取材でいないのか?」

「いいえ…」

真面目に聞いてくる主に、にっこりと微笑み

「昨日は私の元へも悪魔がやってきましてね。うっかりキッチンへ置いておき、手元に無かったものですから、夜明けまで悪戯をされておりました。」


・・・なので佐助には渡せなかったのです。


ポカンとした政宗の様子はお構い無しに、資料をご覧下さいと続ける小十郎。

(Ah.I wanted only to hear the taste of the macaron.)

さりげなく部下の惚気話を聞かされた政宗に、もう小十郎の声は届いては、いない。







I wanted only to hear the taste of the macaron


(俺はマカロンの味を聞いただけなのに)


END
・・・・・・・・・・・・・・
いらぬ惚気話を聞いちゃいましたね、筆頭は。

はろうぃん文。つい書いてしまいました。
政宗に惚気は言わないだろう・・・が、意外に堂々と言うかもなぁ、と思った次第にございます。

読んでくださりありがとうございました。

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