BASARA話 

□たとえ今ここで抱きしめられなくとも
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「右目の旦那!」

別れ際、真田の忍びに呼び止められた。

「何だ。」

「……」

声をかけても黙ったままで、何も言葉がでてこない。

言いたい事は解ってる。

それぞれの主達には言えない仲だから。




敵国で




お互い主の側近で




そして恋仲なんて





切腹モンだ。




「Hey、どうした小十郎?」

「どうしたのだ、佐助!」

それぞれの主から声がかかる。
これ以上ここにいたら怪しまれるだろう。



―――――カシャン



突然忍びが左手の籠手を地面に脱ぎ落とした。

「…佐助っ」

真田が焦りをのせた声で従者の名を呼んだ。



「……くしゅ……」


「…?」


何と言った?


戸惑いが伝わってしまったのか、今度は強い口調で言われた。


左手を


差し出しながら。



「『右目の旦那…』

『一騎討ち、見事だったね』

あくしゅ…だ」



敵国ながらも主達を讃える言葉と、従者としての感謝の意をのせて


握手……と。


そこで気付いた。忍びの意図を。


指先まで全て覆われた鎧を外し、一部露になった素肌。


敵国の前では晒す事は許されないであろう戦忍びのそれに、隠れて触れたのはいつだったか。


今ここで抱きしめたい。

許されるなら口づけだって。



そして俺は自らの手をおおっていた物も取り払った。



「ああ、『見事だったな』」



左手を差し出し相手に触れれば、ぎゅっと力を込めた。




「今日の所はこれで済んだけど、次はもっと精進してくるんだね」


―――またしばらく会えないけどさ


「ふっ、それはこっちの台詞だ」


―――この想いは変わらねぇから


「はいはいっ、楽しみにしてますよ〜っと。」


―――また無事な姿で会えますように


「ふんっ、食えねぇ忍びだな」


―――これが口づけの代わりとして



そしてゆっくりと手を離し、自らの籠手を拾い上げると背中を向けて主の元へ走っていった。


「行くぜ、小十郎」

「はっ。」


自分も主の元へ戻るべく背を向ける。

これでいつもの『敵国の従者』に戻る。





一緒になりたいと


思わないわけではないけれど


自分の第一は主だから


それは忍びも同じだろうから


だから


せめて


来世では……






END
・・・・・・・・・・・・・
ふとした妄想からの産物;
唇と唇でくっつく行為がキス。
ディープはまた別の話として、唇だって肌の一部。
だとすれば、例えば素手と素手で触れるのだって同じ?
愛があれば同じ……と思ったら、心が繋がってる感じの小→→←←佐で、こんな小十佐もありかなと。

お読みいただきありがとうございましたっ!!

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