銀魂 話
□なにかが、かわる
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「よぉ、沖田君。今日誕生日なんだって?」
団子屋でサボっていたら、突然上から聞き慣れた声が降ってきた。顔を上げればそこには、見慣れた気だるげな顔があった。
「旦那ぁ…。ははっ、また一つ歳ぃくっちまいやした。でもなんで知ってるんです?今日が…」
「あぁ、さっき妙んトコでね、近藤が『夜、総悟の誕生会やるんで妙さんもーー』ってね、…ボコられてたからさ」
「…はぁ」
すいやせん、ウチの大将が――
そう言いかけた時、旦那の背中越しに此方を見ている視線に気付く。
「なんでぃ、チャイナ。ナニそんなとこからガン見してんでぃ。」
「……」
……無言?
すると、ぷいっ顔をそらし、その大きな背中に隠れてしまった。
(…なんでィ)
俺が眉間に皺を寄せたのと同時に、大きな手が頭の上にぽんっと置かれた。
「ま、アレだ。早く中身も大人になれるとイイね。おめっとさん」
「そうですねィ、俺のまわりにはニコチンマヨやらマダオやら、素敵な大人が沢山居ますからねィ、色々見習わせていただきやす」
「なんか嫌味に聞こえますけど、総一郎君」
「総悟でさぁ」
ははっと笑い、旦那は片手をひらひらと振り「誕生会楽しめよ」と一言残し歩き出した。
それを目で追えば、赤いチャイナ服がこちらをチラチラと見ながら旦那の袖を掴んでいる。
(…なんでィ)
俺は冷めてしまった茶を一気に喉に流し込んだ。
さて、行くか――と、刀を手にした瞬間、
ぱこっっ
何かが頭に当たったようで、その「何か」は大腿を伝い、地面にコトリと落ちた。
(酢こんぶ?)
咄嗟に顔を上げれば、そこには仏頂面したチャイナ服の少女。
「やるヨ」
「は?」
「やる…ヨ」
「…ちょ…えっ」
酢こんぶと少女の顔を交互に見た瞬間……
もう少女は走り出していた。
(意味不明な事しやがって・・・それにコレ食いかけじゃねーか)
投げつけられたそれを暫くそれを眺め、そして、隊服のポケットに入れる。
「親父ぃ、代金置いとくぜぃ」
毎度ー、と愛想のいい店主が奥から出て来る。
「アレ、沖田さん。なんかいい顔してまさぁ。良い事でもおありで?」
「んー?そうだねィ、珍しいモン見ちまったからねぃ」
またご贔屓に・・と言う店主の声を背に受け、屯所への道を歩き始めた。
ポケットに手をやればあの四角い箱の手触り。
「酸っぱい匂いが染みっついちまう」
あんな顔、初めて見た。
耳まで真っ赤になってたケンカ相手。
(中身も大人に…か)
一つ大人になったんだ。少し歩み寄ってみるのも悪くない。
そう思えた、
誕生の日。