頂き物 【お話】

□.夜明け前の交差点.
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誰も、知らない。



誰も、知れない。



.夜明け前の交差点.



水面下、強かに行われる逢引きはいつしか掛け替えのないものになっていた。



スタートはしいて言えば出来心。



いつしかそれが本気になった、それがいけなかったのか。



オマエが泣く回数が増えた。



俺の胸が締め付けられた。



「…ねぇ、片倉の旦那。」



「…なんだ?」



誰もいない夜の街で、密やかに強かに行われる逢引きは殺那的だ。



しっかりと手を繋いで、オマエを・その殺那を離さないように。



「見て、旦那…すげー。空が紫だ。」



「…もう、夜が終わるな。」



いつも決まった場所で手を離さなければならない。



わかっているハズなのに、それが悔しくて悔しくていつも唇を噛み締める。



「…佐助、」



「離れたくないのに…」



「俺もだ…だが、」



「わかってる…」



儚く笑って、離されそうになる手を、強く引いて抱き寄せた。



ああもう、夜が明ける。



「小十郎さん…」



「…佐助、」



唇を重ねると同時に、オレンジの光が交差点に差し込んでくる。



魔法が、解ける時間だ。



「また、ね。」



「また、な。」



見送った背中は、先程までの逢引きの後を残すことなく。



守るべき人の元へと還っていく。



それを見送って、俺もその交差点に背を向けた。



自分も還らなければならないからだ。



後を残すことなく、守るべき人の待つ場所へ。



END

→次頁  御礼
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