短編

□Believe 〜大切なこと〜
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 ここの床は今日も綺麗で、下を向くと俺がうっすらと映っている。

 いかにも清潔といった感じだが、いつ来てもここは薬品臭くて苦手だ。

 でもそんなことは言ってはいられない。

 ここに来ないとあいつに……弟に会えない。

 俺は周りの臭いに顔をしかめながらも胡散臭い白さを放つ病院の廊下を歩いた。



  Believe 〜大切なこと〜



 色とりどりの花を描いた絵の隣の扉。

 『大野和也』という表札がある扉をノックすると、中から元気な返事が聞こえてきた。

 その声に僅かに安心感を覚えて、俺は部屋に入っていく。


「よお、和也。いい子にしていたか?」

「うん! いい子にしていたよ!」

「そうか。えらいな」


 俺の弟、和也は純粋な心を持つ男の子である。

 本来なら小学校に入学してたくさんの友達とドッチボールをしているような年頃だが、生まれつき体が弱いせいでこうして白い部屋の中で過ごす破目になっている。

 俺だったらとっくに気が変になっていたかもしれない。

 特に楽しいこともなく、ただ外で飛んでいく木の葉を見つめているだけの生活。

 しかし、和也はいい子だ。

 俺も弟を見習わないといけないかと思うときがあるぐらいに。

 兄馬鹿に思われるかもしれないけれど。


「今日も持ってきてやったぞ」


 俺はそう言って薄い鞄からいくつかの本を取り出した。

 全て和也のために持ってきたものである。


「わあ、ありがとう、お兄ちゃん」

「どういたしまして」


 俺が取り出した物は絵本である。

 定番のものから、俺も知らないものまでいろいろ。

 先程も言ったように、この部屋にいては楽しみなんて限られている。

 昔、少しでも楽しみが増えればと、俺が選んだのがこの絵本。

 和也は俺が持ってきた本をいつも喜んでくれて、選びがいがある。

 和也の隣に座って、絵を見せながら俺が文を読むことが俺の日課。

 和也にとってこの時間は至福のひと時らしいが、きっと俺にとっても同じである。

 和也が嬉しそうな笑顔を見せるたびに俺自身も嬉しくなるから。


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