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□ミカタ
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Prologue



 平凡とは褒め言葉か、否か。

 どちらと問われて、人は少し答えに困る。

 平凡とは何も秀でていないことだから褒め言葉ではないのか。

 それとも、あえて何も突出していない状況こそを良しと考えて、褒めているとするか。

 あなたはどちらだろう。

 彼、綾辻(あやつじ)和輝(かずき)は平凡を褒め言葉と考えていた。

 毎日通う高校、北野ヶ丘学園は平凡そのものであった。

 尊ばれるほど賢くはないが、馬鹿にされるほど頭が悪くはない。

 クラブの大会にひっそりと参加していて、いつの間にか敗退して姿を消す。

 人に自慢するような施設もイベントもない。平凡、平凡。

 それでも和輝にとって、この学園はかけがえのない大切な場所であった。特に何の問題もなくて、ストレスになることもない。

 平凡で、平和な毎日がここにはある。和輝はこの学園での日々が本当に大好きであった。

 しかし、学園は徐々に平凡から遠ざかり始めることになる。

 きっかけは彼のいる二年三組での出来事。

 同じく二年三組の一員である葛城茜が、クラスの誰からも相手にされず存在しないものとみなされ、無視される。

 いわゆる「集団無視」の対象になったのである。

 首謀者は、かつて彼女の親友であった女子生徒、錦(にしき)刹那(せつな)。

 運動神経が良く、この学園に入学したのは間違いではないかと言われるほど成績が良い。

 皆から慕われるクラスのお姉さん……という訳でもなく、男勝りな性格も手伝って彼女の周りには男友達の方が多く、女友達は数えるほどしかいなかった。

 かといって、男友達も多いわけではない。

 敬遠されていた、いや、単純に恐れられていたと言ってもいい。

 中学で不良の集まりを撲滅させたという噂もあり、喧嘩に疎遠で平和主義の生徒たちは彼女に近づかないようにしていたのである。

 そんな彼女の、葛城茜へのたった一言で茜のクラスでの立ち位置は変わった。

 たった、一言。


「近づくな」


 本当に、それだけ。


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