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□ミカタ
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久しぶりの再会
空は水色。
薄く広がる雲は涼しげである。
ちらほらと見えるのは小学生が赤、黒、桃、青とさまざまな色のランドセルを背負って歩く姿。
その中で高校生の和輝はあまり教科書やノートの入っていない鞄片手に走って、たまに体力が足りずに歩き、また走るを繰り返していた。
東町というありふれた名前の町の一角にその家はある。
『KATSURAGI』と書かれた看板がかたかたと乾いた音を立てている。
一見すると留守だと思ってしまいそうな静けさが漂う家だが、窓から漏れる電気の光でそれは勘違いだとわかる。
いつもはここで何度か深呼吸をする和輝だが、今回は自分自身に余裕を与えず、まるで「つまずいた拍子に押してしまった」という言い訳ができそうなほど呆気なくインターホンを押した。
いつものように深呼吸をすれば、緊張のあまり押すのをためらってしまうのではと思ったのである。
返事が聞こえるまで、少しだけ時間がかかった。
――どなたでしょうか。
声から察するに母親だとわかる。
歓迎の色はなく、疑いと怯えが感じ取れる。
インターホンにはレンズがついている。
おそらくこれがカメラとなって、誰が訪問したかを知らせているのだろう。
もしインターホンを押したのが和輝ではなく刑事なら居留守を使われていたのかもしれない。
和輝は一つ唾を飲み込んだ。
「あの、綾辻です。綾辻和輝です。その、茜さんと話がしたくて……」
――茜のクラスメイトですか?
「そう、そうです! 僕、茜さんの」
そこで和樹の言葉が途切れた。
普通に「茜さんの友達です」と言えばいいのだが、和輝はどうしてもその言葉が口にできなかった。
お前はそんな大それたことを口にしてはいけないと、胸の痛みが和輝を制する。
集団無視、もし茜が苦しんでいたその頃に和輝が声をかけていれば、和輝は胸を張って「茜さんの友達です」と言えただろう。
だが、実際は和輝も。
――少々お待ちください、茜に聞いてきます。
まるで企業の電話案内のような口調だな、と思いながら和輝は黙ってインターホンを見つめ続けた。
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