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□ミカタ
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平穏と不穏
「学校の様子を?」
和輝と蓮二がストーカーについて話しをした日の翌日、伊角の方ではまた片岡がやって来ていた。
学校は昼休みで、職員室にいても生徒の楽しそうな声が聞こえる。
ここは小学校かと聞きたくなるような喧騒である。
「そう、千ちゃん。ちょっとこの学校の雰囲気とか、一度でいいから見ておきたくて」
「役に立つのか?」
「犯人が葛城さんじゃないとすれば、他の教師や生徒が怪しいだろう? だから千ちゃんの案内の元にさ」
「まあいいけれど、出来れば恰好を変えて欲しい」
「スーツじゃ都合が悪いの?」
「この時期に俺と歩いていたら、鋭い奴はトオルが刑事だと気づくかもしれない。だから……そうだ、ジャージに着替えてくれないか?」
「ジャージかあ。いいけれど、なんか変な気分だなあ」
それから片岡が更衣室で体育教師から借りたジャージに着替えると、二人は二年生の教室の方へ向かった。
伊角の方はどう見ても普通の教師だが、片岡の方は少し鍛えられた肢体とジャージで体育教師か何かにしか見えない。
少なくとも刑事には見えないだろう。
すれ違う生徒が「見たことのない先生だなあ」と少しだけ片岡に視線をやるが、全く興味のない様子で去っていく。
伊角の狙い通りだ。
「まずここが一組だ。一応、この事件も集団無視もこのクラスは関係ないと思うが」
一組、お世辞にも綺麗とは言い難い教室で何人かの生徒が馬鹿騒ぎを繰り広げている。
そこにはいないが、一組の担任である勝島先生も似たようなもので、この教室の風景は勝島先生そのものを表しているようであった。
「一組で葛城さんと仲の良かった人は?」
「聞かないな。進級の際にクラス替えをしているから一年の頃に同じクラスだった、という生徒もいるだろうが。ああ、でも沖さんや芦谷さんと仲の良かった人ならいるだろう。彼女たちが一組に何かを借りに来るのを見たことがある」
「錦さんは?」
「……聞かない」
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