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□ミカタ
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級友、旧友


「やっと戻りましたか、伊角先生」


 コーヒーの香りが漂う職員室。

 伊角は自分の席に戻ってすぐ、隣の背の高い眼鏡男に声をかけられた。

 どうやらコーヒーの香りの源はこの男らしく、椅子に浅く腰かけて湯気立つコーヒーをすすっている。

 この男は二組、蓮二のいるクラスの担任である桐谷(きりや)東吾(とうご)。

 伊角より少し年上の物理教師である。

 何故、授業が終わってから急ぎ足で戻った伊角より桐谷の方が先に職員室にいるのか。

 気になりながらも伊角は「何かありましたか」と言葉を返した。


「何かって、警察ですよケーサツ。あなたのこと、首を長くして待っていますよ。伊角先生のクラスの生徒が起こした事件のことで、話を聞きに来たのでしょうね」


 何も、事件を起こしたのが三組の生徒だと決まったわけではないのだが。

 伊角も一々言葉に抗議せず、荷物を机の上に置いて襟とネクタイを整えた。


「わかりました。校内でお待ちですか」

「今は応接室にいますよ。何でも、あなたと二人きりで話をしたいとのことで。何を聞かれることでしょう、もしかして生徒の犯行を裏付ける証拠を見つけたのではありませんか? そうなると、もう言い逃れはできませんよ。あなたも教師としての立場が危――」

「ありがとうございます。行ってきます」


 桐谷の話を最後まで聞かずに伊角は応接室の方へ早足で去って行った。桐谷は伊角の後姿をにらみつけて、もう一度コーヒーを口に運ぶ。熱いコーヒーから発せられる湯気が眼鏡を覆い、伊角の姿がぼやける。


「もしかして伊角先生のことをいじめているのですか? 桐谷先生」


 桐谷の背後から、四十代と思われる女の声がかけられる。

 桐谷は伊角の机の上に山積みになっている本や書類に目をやると、ふと鼻で笑った。


「とんでもない。そんなことをしたら私、殺されてしまいますよ」

「ふふ、そうねえ。物騒な世の中だわ」


 それは、小さな声での会話であった。

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