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□ミカタ
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 葛城茜、彼女もまた刹那とは違った意味で友人を多く持たない人物であった。

 彼女は多く話す人物ではなかった。寡黙で、温厚。

 嫌われる性格ではなかったが、大勢に好かれる人物でもなかった。

 なにしろ、彼女と話をしたことがある人物が少なかったのだから。

 正反対ともいえる茜と刹那が何故親友の関係であったのか、それについては誰も知らない。

 ある日、茜に話しかけられた刹那は、突然「近づくな」と叫んだ。

 その声はクラス中、いや、隣の、その隣のクラスにまで響き、噂は一瞬で広まった。

 葛城と錦が喧嘩している。

 錦が葛城を無視している。

 そして、噂を聞いた彼らがとった行動は、不思議か、当然か。

 刹那に敵対視されるのを恐れ、彼らも茜を無視し始めたのである。

 茜を無視する、彼らに罪悪感はなかった。

 もともと茜とはそれほど仲良くなかったのだから、今更仲良くする方が不自然だ。

 それに茜と刹那は何故か仲が良かった。かつて仲の良かった二人だ、喧嘩の原因は分からないが、そのうち二人の仲は戻るだろう。

 そう、時間が解決するだろう。

 彼らはそう考えて、彼らの平凡で平和な学園生活を享受し続けた。

 しかし、考えに反して事件は起こる。

 先日、錦刹那と彼女の親友、芦屋(あしや)ネネと沖(おき)花音(かのん)が夜の教室で撲殺されたのである。

 平凡と呼ばれた北野ヶ丘学園は、その日を境に平凡と呼ばれなくなった。

 警察が動き、世間に事件とそれまでの『集団無視』について報道され、人々の注目を集めた。

 そして、警察や世間一般の人々は言ったのである。

 葛城茜が怪しい、と。

 茜は名も知らない人から嫌疑をかけられ、道行く人に指をさされ、警察には質問攻めにあい。

 苦痛に堪えかねた彼女はとうとう自宅の部屋に引きこもってしまい、今日に至るのである。

 本当に茜が殺害したのか。

 それとも、別の誰かが殺害したのか。

 そもそも、殺人事件と集団無視は関係があるのだろうか。

 事の真偽を知る者は誰なのか。

 今日もどこかで、誰かが一歩を踏み出したのであった。


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