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□ミカタ
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「お、お、おはよう、滝畑(たきはた)さん。ごめん、何か用があったっけ?」


 実に不自然な返事である。

 緊張しているのがまるでよくわかる和輝に女子生徒、滝畑小町(こまち)はくすりと微笑んで、和輝のすぐ隣にしゃがみ込んだ。

 短いスカートだ、うっかり見てはいけないものを見てしまうのではと和輝は恐怖を覚えるが、小町は全く臆さない。


「最近調子はどう?」

「調子? 調子はほら、その、調子いいよ……」

「朝ごはん、ちゃんと食べている?」

「え、え? あの、俺の家は両親ともに健在だから心配しなくても健康は、その」


 和輝が目をそらしてそう言うと小町はわざわざ和輝の目線の先まで移動し、顔を覗き込むようにして笑顔を見せた。


「良かった! 私、心配したんだよ? 最近、和輝君元気ないから」

「そ、う、そう?」


 元気がなかったのは事実だが、その原因の一部が紛れもなく小町自身であることを彼女は知らない。

 気づかない。

 気づく訳もない。

 おそらく和輝が小町に向かって「調子が悪いのはお前のせいだ」と単刀直入に言っても信じないだろう。


 滝畑小町。

 名前に似合って容姿は可愛らしい。

 眉が少し太く顔もふっくらしているが、それが余計に近所の大人たちの評判を上げているらしい。

 彼女が住んでいる町が「大鳥」というので、「大鳥小町」とも呼ばれている。

 誰もが認める「愛想のよい子」なのだが、彼女とお近づきになりたいと考える人は殆どいないのが現状である。

 無理もない、何故なら彼女には異常な「ストーカー癖」があるからで。

 男女かまわず、気に入った相手にはどんどん接近する。

 隙あらばやって来るものだ、彼女にまだ「ひっつき虫」というあだながついていないのは奇跡であろう。

 皆、彼女が悪い子ではないことはわかっている。

 優しく、友達想いで、容姿も悪くないのだから友人に欲しいタイプではあるが、万が一彼女に気に入られた場合を考えると近づけないのだ。

 そして、その果てに好かれたのが何故か、何故か和輝であった。


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