おおきく振りかぶって

□冬は嫌い
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「はっくしょい!」

大きなくしゃみと共に出た鼻水をかむと、ゴミ箱にティッシュを投げ付けた。
冬は嫌いだ!
寒いし空気は乾いてるし、それに俺は毎年、風邪を引く。
今年こそと思って気をつけていたのに、今日ついに微熱が出てしまった。
折角の休みが台無しだ。
俺馬鹿な母はいつも以上に五月蠅く構ってくるし、野球の練習に行った兄ちゃんには「だせぇ」とか言われるし。
せめて微熱で治まるようにと、今日は一日寝て過ごすこととなった。
とはいえ、平熱より少し体温が高い状態では、眠くならないのが正直なところ。
暇すぎて欠伸もでない。ゲームがしたいな、と部屋を探してみるも、兄ちゃんに貸していたのを思い出した。取りにいけなくもないが、勝手に部屋に入ると怒られる。ただでさえ「だせぇ」という言葉が胸に刺さっているというのに、怒られたくはない。
俺は仕方なく、ベッドに引き返した。
ひやりと冷たい布団に、ぶるりと身震いする。
室温と外気の温度差に窓はうっすらと曇り、ベッドの側に置いてある加湿器からはそれを更に促進させる蒸気が出ている。
明かりのついていない部屋はうっすらと暗く、孤独を思わせるように時計の音がやけに大きく聞こえた。
階下からは包丁の音が聞こえる。
話し声はしない。

「……」

つまんない。
兄ちゃん、早く帰ってこないかな。
帰ってきても得に何をするわけではないんだけど、やっぱり家に兄ちゃんがいないのは寂しい。
枕元にある携帯で時間を確かめると、まだまだ帰ってくるには早過ぎる。
溜め息をついて、携帯を手放した。

(…兄ちゃん)

病気だからかな。
病気すると気が弱るからかな。
会いたいよう、兄ちゃん。
早く、帰ってきて。











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