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□まだ覚めてないのかも。
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空が橙だった。

真夏のむかつく蒸し暑さは、まぁ許せる程度に落ち着いている。
グラウンドでサッカー部がパスの練習をしている周りを
野球部が掛け声に合わせて
ぐるぐるぐるぐる回っていた。
むかでリレーのようだった。

あたしは誰もいない教室でひとり、アコースティックギターを床に置いて机にうつぶせている。
一応軽音楽部員なので練習という名目でこの教室にいるけれど、

そんなの嘘っぱちだった。
うまく練習をサボる理由でしかなかった。

そんなに不真面目なくせにどうして部活をやっているのかというと、彼氏と一緒に帰りたいがため。

うわぁお、
あたしってば乙女。

でもそうでもしないと彼氏といる時間は完全になくなるのだ。
彼は噂のテニス部で、しかも副部長なんて役職をいただいている。
顔はもう課長っぽいけども。
それに古風な趣味も手伝って、家に帰ると藁とか切りまくってるらしいから
もうデートなど言ってる場合じゃないのだ。

そんなわけで、
あたしは今日もこうして微妙にギターを愛でつつも
むしろ机という名の枕をいとしく思って過ごしている。

今現在午後七時過ぎ。
もうすぐしたら真田が来るころだと頭ではぼんやり感じていたけれど、目が開かない。
夜の、眠りにつく直前の状態だった。

あぁもうどうでもいいや。
どうせ真田が来てさ、
何をやっとるかー!!なんて一喝するんだ。
アラーム機能完備だね。
それまで眠ってるから、まぁ適当に起こしてよ。

一旦気が緩めばあとはもうこんにちはドリーム世界だった。
一瞬隅の方で静かにドアが開かれたような気がしたけどそれどころじゃない。
夢の住人どもがあたしに住民登録を強制してきたから。







生理現象は
時として残酷。

あたしは今日もそれを思い知った。

やってしまったのだアレを。

授業中に居眠りしていたら、体のどこかがビクンっと跳ね
それに驚いて飛び起きるアレを。

それはそれは盛大だった。

何せ立ち上がった勢いで椅子が思いきり後ろへドカーンと倒れたのだから。


いやぁ、マジに恥ずかしいなコレ…!!!
授業中とかだったらもう真っ先に笑われてますよ。

誰かに見られてなくて良かった
あたしはこの時完全に気を許していた

隣で、椅子から落ちて唖然としている男の存在に全く気付かずに。



「お、おい。いきなり何なのだお前は。」



…ん、ん?



え、あ、うそん。
聞きなれた声が、あぁ近い。

点、点、点、丸。

空気は止まる。
あたしはそのまま。
真田は立ち上がる。


「な、何で真田、」

今まで何やってたの。

アラーム代わりの真田の一喝は無かったはずだ。


ガタガタ、
あたしの質問には答えないで
借りてた椅子を元通りに直すと
真田は時計をちらり
帰るぞ、の一言

若干顔が赤いのは何でだ。
日焼けか。


後ろ姿を追いかける
午後7時45分。
完全下校時刻は過ぎていた。


ねえ、
ねえってば、
何で起こしてくれないの。



部活生だってもう帰ってるこの時間
外靴を持って、職員玄関から
ハイ退場。

ばつの悪そうな顔をしたまま
まぁ基本的に無口だけれど
さらに拍車をかけた無口さで、
あたしの一歩前を歩いて行く彼はどことなく変だった。


てゆうかさ、
あたしの寝顔、
まさか見てないよね。


校門を出てすぐの緩やかな坂道に
ぽつんぽつんと街灯が伸びている

うす明りで照らされた大きな背中へ
気になっていた質問を投げかけた。



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