tennis

□その距離数センチ
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あぁ、ここにいたの。



ふと見上げるとそこには木手がいました。

彼への第一印象はそう、
筋肉の付き方がエロい。


そんなこと言ったらもう盛大な溜息ついて
はぁ、
まぁいいですけど。

視線つきささる
その温度マイナス領域。



今日の美術の授業をサボったあたしは
なんだかもう、ほんとに。

何がしたいのか謎に感じてしまって。


とりあえず、まぁ、
寝るべ。

なんて幸せな結論に至って今に至る。


部室の安っぽいイスを二つ持ってきて並べたら
出来上がり、最低レベルのベッド。

寝返り打とうものなら速攻床に激突するわけだけど
まぁいいさ。
あたし、寝相は良いので、かなり。



そういうわけでまぁ寝にくいながらになんとか横になったのも束の間、


頭に戻るわけですね。





「やぁ、木手殿。」

まだそんなに眠くない目を半開きにしておいて
おふざけ調子で返す
だるだるの挨拶。


あたしを見るなり、はぁ、
溜息でもつくかと思いきや



「風邪ひきますよ。」


言うなりあたしに向かって少し笑った。



あ、



なんか、やばかった、今の。



こういう時だけ予想を裏切るのはやめてほしいね、
脳みそついていかないからさ、


寝ころんだままやっちゃった一瞬のフリーズに、
木手は分かってんだか分かってないんだか曖昧な表情で
あたしに一枚上着をかけた。



木手のピィコートが体に触れてく、
その面積と比例して上がってく体温が、
悔しい、けど
あぁ幸せなの、ごめん。

ぎゅ、と分厚い生地を掴んでみると
彼の薄い唇が笑い


「レンタル料ふんだくってやらないと。」


おもいっきりね。



ぽん、とあたしの前髪付近に手をあてて
彼は少しだけ撫でた。
少しだけ。



もうちょっと、
ここにいてよ。


なんて言えたら。




「じゃぁ、また後で。」



彼は手を離す。
彼は背筋を伸ばす。
彼はゆっくり後ろを向く。
彼は歩きだした。


待って、
何度心の中で言ったろう。


って言っても
あと数時間後にはまたこの上着を返しに
木手のところへ行くというのに。


それでもいま、
あたしはいま
彼と一緒にいたいのだ。


彼は扉を開けた。

外気の冷たい温度がピィコートを通り抜けてしまいそう。
やめてよこの野郎。


彼は外に出る。
出ないで。
彼は振り向かない。
振り向いて。
彼はドアの取っ手を離した。
離さないで。

がちゃん、
金属の音は固かった。





「あぁ、ちくしょ。」



部室にひとり。

さっきの冷たい外気が

あぁ、早く消えゆくことを願って。


そんでもってついでに。


あの時木手に、部室を立ち去らせないような
そんな女になれたら。
そんなことも願って。


そしたらまたサボんなきゃだな。

まぁ、それはいいか、




そんなサボり魔のエピソォド。






End.




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