本棚2

□この続きはまたいつか、それとも
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真夜中。
日付は先ほど変わったばかり。

「何してるの」
時折カーテンの隙間から差し込む月明りだけが頼りの、薄暗いこの部屋は本来“禁足地”であった。
「別に」
「別に、って。兄さん達に叱られても知らないよ」
この部屋は父の私室。
主は、とうの昔に亡い。
「お前がチクらなきゃいいだけだ。どのみちお前だって同罪だろ、何しに来た」
「それ、屁理屈って言うんだよ。ハーレム」
「……うるせェ。お前こそ屁理屈ばっかじゃねェか。人の神経を逆なでする事がそんなに楽しいか? あ?」
1人の時間を邪魔された怒りを、しかし低く静かに露わにすれば漸く黙ったサービスと、少しの間にらみ合う。
薄暗い空間。
たまに横切る月明り。ゆっくりと。
その月光に、淡く輝くサービスの右目が美しいと何故だか思った。

「――明日の朝には発つ」
ややあって口を開く。
「最後の悪戯くれェ、兄貴達も見逃してくださるだろうさ」
「そうだね。もう子供じゃない」
16歳になった。
この国では大人だ。やっと。
やっとスタートラインに立てるのだ。
この部屋の、亡き主の背中を追うためのスタートラインに。
「ねえ、ハーレム」
いつの間にかすぐ目の前に。
直後、ヒヤリとした感触。それが唇に。

「なに、してんだ」
冷たいのはサービスの唇だったと、分かったのは彼が何事も無かったかのように離れてから。そして当然のように言い放つのだ。
「やっぱり気持ち悪いね」
「だったら初めからするな、馬鹿」
「今生の別れになるかもしれないじゃない。だから一応、試しておこうかなって」
冗談めかした調子で弾む声。
何を試したのか。
何を、試されたのか。
ただ。
寂しいのなら、そう素直に言えばいい。
けれど言えやしないのも分かっている。この双子の弟は、悲しいくらいに自分とそっくりなのだから。

「もう一回、する?」
返事が口から出ることは無かった。
再び重ねられた唇は、本当に、どうしようもなく冷たくて。
そしてほんのわずか、塩辛かった。


【ハッピィバースデイ、アンチモラル】

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