本棚2
□お菓子をください
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13歳。
子供扱いされるのは腹立たしい。
しかしまだ大人では無い。
腹を立てているのはまだまだ子供である証だと嫌々ながらに自覚する、そんな憤りを抱えた年齢である。
「もう部屋に戻るの? あと1杯くらい飲んでいきなよ。今淹れてる紅茶、とっても美味しいのに」
同じ歳の双子の弟、サービス。
ハロウィンだから夜はみんなで仮装パーティーをしようと言い出したのはサービスだ。
それを、ハーレムは初め突っぱねた。
いい年をしてハロウィンだの仮装だのと呆れるよりも、そんな子供じみたことを臆面も無く言える弟の無邪気さが癇に障ったからだ。
「うるせえ。わざわざ付き合ってやったんだからもういいだろ」
「付き合ってやった、って。ハーレムがわがままを言うから、ただのお茶会になったんじゃないか。マジック兄さんだって仕事で来られなくなってしまったし」
「はあ? マジック兄貴が来れないのは関係無いだろ。大体わがままなのはサービスだ、なんだよ仮装パーティーって。ガキのすることじゃねーか!」
「僕らはまだ子供だし、いいじゃない。何を怒ってるのさ」
「お前なあ!――」
「ふたりとも。アフターディナーティーのマナー、解っているかい?」
口論になりかけた二人の間を割って入る静かな声。
この茶会の場として書斎を提供しているルーザーが、呆れたように双子を交互に見やっていた。
「サービス。お前の方から誘ったのは事実だろう? でもハーレムは仮装だけは嫌だって言うから、妥協案ということでこのお茶会になったんだ。それに、気に入らないからといってマジック兄さんの都合を持ち出してハーレムを非難するのはフェアじゃない」
「……ごめんなさい、ルーザー兄さん」
「ハーレムも。子供扱いされるのが嫌なら、きちんとした大人の振る舞いを学ぶのが先だ」
「解ってる、でも」
「ハーレム」
「……ッ」
睨まれた訳でもないのにハーレムは身を竦ませた。
ルーザーから視線を逸らすことも出来ないまま一度浮かせた腰を再び椅子の上に戻したハーレムは、小さな声で「あと1杯だけ、飲んだら寝る」と伝えることが精一杯だった。
「……なんなんだよ」
急いで戻った自室。
呟いた言葉は灯りを点ける前だった暗闇に溶ける。
最後に飲んだ紅茶が、まだ喉の辺りにつっかえてるようで気持ちが悪い。
いや、つっかえてるのは先程のルーザーのことだ。
いつもいつも叱られるのはハーレムの方だった。
同じことをしていてもハーレムだけが叱られる。
素直で、要領の良いサービス。
そんな彼があんな風に窘められるところなど、見た事がない。
だから気持ちが悪いのだ。
その時だった。
ドアをノックする音。ひ、と喉が鳴る。
マジックは居ない。
サービスは、ノックなんかしない。
だとすればドアの前には。
「な、に?」
ぎこちない動作でドアを開けたハーレムの、前には。
「Trick or Treat」――そう言って微笑むルーザーが居た。
菓子なんて、持っていない。
震えそうになるのをどうにか抑えて告げる。
「お菓子をくれなきゃ、悪戯するよ?」
変わらず微笑んだままのルーザーの背後で、ドアが静かに閉まった。
【ああ。悪戯じゃなくてお仕置き、かな】