本棚2
□(弟の)ご利用は計画的に
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夏は暑いというのが当たり前。
そんな夏を快適に過ごす為に作られたエアコンという現代文明の利器は、偉大だ。
ただし――…稼働していれば、の話である。
「兄貴ィー…ハンコくれー…」
「ああ、うん、ハンコね…ハンコ…」
ガンマ団本部は、暑いと言うには生易しい室温に支配されていた。
体温と数度も変わらない熱気に包まれた廊下を熱い湯の中を泳ぐような気分で潜り抜けたハーレムが、ほうほうの体で漸く辿り着いた先もまた、煉獄。
上質な執務椅子に半ば溺れるようにして座っていたマジックが、差し出された書類を受け取りながら反対側の手で持ち上げたのはハンコではなくタバコだったが、最早指摘してやる気力も無い。
「あれえ?」という気の抜けた兄の声を背後に聞きながら、ハーレムは応接用のソファへと俯せにダイブした。
現在、ガンマ団本部のほぼ全ての空調が一部の医療・研究施設や情報センタ等を除き、停止している。
動かしたくとも動かせないのだ。
――昨晩繰り広げられた、マジックとハーレムとの危険極まりない兄弟喧嘩の所為で。
どちらのものだったかは定かでないが、ものの見事に空調制御の為の設備が集約している部屋を貫いた青い光は、団員達の悲鳴と溜め息を尾に引きながら天へと吸い込まれていった。
――その結果が今の状況を作り出した訳であるから、ハーレムも珍しく文句を口にしない。それに、口にする気力も尽きている。
ギシ、と音がしてマジックが立ち上がった気配があった。
冷たいものでも調達してきてくれねェかなあ、などとボンヤリその気配を追っていたが、如何せん体を起こすどころか声を発するのも面倒…だったのに。
「――ッ?!!!」
「あー…やっぱり熱いねえ…」
「兄貴、ちょ、重ッ!!ってかアチィ!!何してくれてンだ殺す気かよっ?!」
何を考えているのか、突如マジックがハーレムの背中へとのし掛かって来たのだ。
重いわ、暑苦しいわ、だが兄の下から逃れたくとも小狡いことに関節を抑えられ、全く身動きが取れない。
せめてもと足をバタつかせるが俯せでは何の効果も期待出来ず、しかもそこへマジックがとんでもない一言を吐き出した。
「ハーレムぅ……セックスしよっか」
…溶けた?脳みそ溶けた?
嗚呼、兄貴もついにおかしくなっちまったか…ってことは俺が総帥?
と、むしろハーレムの方が暑さでおかしな事になっているのを余所に、マジックが坦々と服を脱がそうと肩から手を離した瞬間――
「よし、今すぐ死ねクソ兄貴!!」
「おっと。手癖の悪い子だね」
ハーレムが振り向き様に食らわそうとした拳を容易く受け止めたマジックは、何が楽しいのかニコニコと微笑んでいた。
「心頭滅却すれば火もまた涼し、っていう日本のお坊さんの有難ーい言葉があるじゃないか」
「あー涼しいとか言いながら呆気なく焼死した坊主の最期の台詞なんざクソッ食らえだ、離しやがれ!!」
「案外詳しいねってお兄ちゃん、ツッコミ入れれば良いのかな?」
「違うわッ」
「そうだね、突っ込むのはこれからだし」
「ばっかや、ろ、ンゥッ――!!」
グイと引き寄せられたかと思うと噛み付くようにキスをされ、喚きかけていた所為で開いた口内に易々と侵入された舌がひどく、熱い。
互いに体温が上がっているからか、一方的に絡められているマジックの舌と己の舌との境界も曖昧で、奇妙な感覚だった。
「ん、ぅ…っふ…?!」
暑くて適当に羽織っていただけのシャツを掻き分けて、マジックの手のひらが汗ばんだ脇腹の上を滑る。
ビクリと体を震わせると、合わさったマジックの唇が笑みの形に歪められたのが解って血の気が引いた。
「ふ、ア…ッ兄貴…!」
「なぁに?」
「あう…ッ!!」
やっぱりだ。
ああやって、笑いながら事を一方的に進める時はロクなことが無い。
顔に笑みを張り付け脇腹をさする手はそのままに、ズボン越しに股間を強く握られてハーレムは息を詰まらせた。
「んー…まだ柔らかいねえ」
「あっ、や、揉むな…ッこの…!」
まだ萎えていたそれの硬度を確かめるように布越しに揉み込まれて、甘ったるい痺れが腰の辺りにじんわりと広がっていく。
とにかく引き剥がそうと伸ばした腕はしかし、空を切った。マジックが体を起こしたのだ。
「何…っちょ、何すンだよ…!?」
「私がこれから何をするか、解らない程お前は初ではないだろう?」
ベルトを抜き取られ、ゆっくりとジッパーを下ろしていく音と感触が嫌でもその先の行為を知らしめる。
だがそれは体を伏せていたままでも出来る筈だ。マジックがいちいち体を起こした意味は、つまり――…
「やめ…っ、俺それいっつも嫌だって言って、ンッ、ぁア!」
ぬるりとした感触に、まだ萎えている自身がすっぽりと包まれる。銜えられたのだ。
「ひ…っ」
喉がひきつって、情けなく呻きながら力の入らない手でマジックの髪を掴むが、離す気など毛頭無いと言わんばかりに強く吸い上げられて背が弓形に反り返る。
たっぷりと絡められた唾液が滲み出した先走りと混ざって水音をたて、気が付けば全身の血液がそこに集約されてしまったかの如く脈打ち始めた頃、マジックは漸く口を離したようだった。
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