本棚2

□硝子のキャンディ
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(南国とPAPUWAの間、2010年ハロウィン)


はて、甥っ子どもは一人を除いて全員20代半ばだったと思ったんだがな。


「ハーレム叔父さぁん!Trick or Treat!!お菓子ちょーだい」

「グンマ、菓子を貰う行事とはいえ最初からねだるものではないだろう。いいか、」

「ハーイハイハイ、ご高説はいいからいいから。ホラ菓子くれヨ、オッサン」


遠征の合間に立ち寄った本部の総帥室で、大の大人が雁首揃えてやがると思ったら、これだ。

中身がガキなグンマや、常識の通用しないキンタローはともかくとして。
シンタロー、お前は総帥だろうが…!


「決裁頂きたいんですけどォ?」


完全に無視を決め込んで、苛々しながらデスクの上の書類を指差す。
次の遠征がつかえてんだから、正直早くして欲しいんだがな。


「あー!!アンタまたやり過ぎたろ?!」

「うるっせェな、向こうが仕掛けて来たんだからしゃーねェだろが!!」

「なになに、どーしたの?」

「叔父貴のやり方が荒い、ということだ」


またァ?とグンマがケラケラ笑い出した。
あの南の島で見せた真剣さは何処に行ったのやら。

しかし、こっちとしても無茶をしたつもりは無い。むしろ加減した方なのだが、新総帥のお気には召さなかったらしい。


「駄目だ、これじゃ決はやれない」

「ンだとォ?!」

「せめて経緯をもう少し詳しくしてくれりゃ、考えてやるよ」

「てっめ…!明朝にゃ発つんだぞ?!」


それまでに書き直せってか、冗談じゃねェ。
デスクワークは面倒で苦手だってのに!


「シンタロー、挑発するのは止さないか。叔父貴も落ち着け。手伝ってやる、それでいいだろう」

「甘やかしてんじゃねーよ」

「お前だって俺がデスクワークを手伝ってやらなければ溜まる一方じゃないか」

「ぐ…」

「やーい、シンちゃん怒られてるぅー」


騒がしい奴らだ。
だけどまあ、変わったよなコイツらも。


「…何、ニヤニヤしてんだヨ」

「べっつにィ?仲が良くて何よりなこって」


俺がコイツらぐらいの年の頃には、兄弟全員が揃うことなんて無かったから少し羨ましくもあった。

その辺のことが解決してからは珠に顔を合わせるようになったが、失われた年月と言うものはやはりどことなく埋められないもので。

せめてコイツらには、そういうの、味わって欲しくは無い。


「おい、シンタロー」


持っていたもうひとつの小さな封筒を、そっとデスクに置く。


「ンだよ、これ」

「お前らにやる菓子は無いがな。居るだろ一人、小せェのがよ」

「…まさか」

「叔父さん、開けても良い?」

「ああ」


固まっているシンタローの胸中を察してか、人の感情には聡いグンマが横から封筒に手を伸ばす。
キンタローも身を乗り出して、その様子を見守っていた。

そおっと封筒を傾けたグンマの手のひらに、中身がコロコロと転がり落ちて。


「わあ、硝子細工のキャンディだあ!スゴいスゴい、キレイだねぇ」

「チビの枕元にでも置いといてくれや」

「珍しく気が利いているな」

「うっせ」


遠征先の街で見掛けた硝子のキャンディ。
未だ目覚めないもう一人の甥っ子に、せめてと思って買ってきた。

…ま、ハロウィンってことはコイツらに会うまですっかり忘れていたんだが、それは黙っていよう。


「…さんきゅ」

「ばーか、いらねェよ礼なんて。俺が欲しいのはお前のハンコだ、ハンコ」

「それはやらん」

「こンのやろ…!」

「ああもう、俺の部屋に行くぞ叔父貴。早く終わらせたいのだろう」

「お、オイ?!」


掴み掛かりそうになったのをキンタローに素早く制止されて、そのまま総帥室から連れ出された。

去り際にグンマのバイバイと言う底抜けに明るい声と、期限は日付が変わるまで!と言うシンタローの不機嫌そうな声が聞こえてきて、やれやれと苦笑する。


「…ったく、騒々しいったらねェな」

「アンタもな」

「あーあー、説教なら後でまとめて聞いてやるから。ちょっと休ませてくれや」

「ハーレム」


突然、前を歩くキンタローが足を止めた。
叔父貴、ではなく名を呼ばれて少しドキリとする。


「Trick or Treat」

「…はァ?持ってねーよ菓子なんて」

「なら、悪戯してもいいな?」

「え、…ンぅっ?!」


振り返ったキンタローに顎を掬われて、そのまま強引に口付けられた。
触れていただけの唇はすぐに離れ、何を呆けているのだと額を小突かれる。


「こ、の、悪戯坊主が…!」


そう毒づけば何とも小憎たらしい笑顔を向けられて。

全くこいつには、やっぱり敵いそうに無い。



硝子のキャンディ

続きは、報告書を書いた後でな


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