本棚2
□怒らせないと決めた日
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「全く。言ったでしょう?いい加減にしてください、と」
「ンうっ、ふ、ぐ…ッッ!?」
マーカーの空いた方の手が下半身に伸び、何の前触れもなく慣らしもしていない後腔に指が二本、捩じ込まれた。
抉じ開けるように進んでくる指の痛みに背筋がひきつり、体が強張る。
それは余りにも突然で、抵抗することさえ忘れていた。
「んふぅっ!!ン、ン――!!」
「ホラ、前立腺ですよ。お好きでしょう?ココを弄ばれるのが」
男にしては長すぎる爪で突き刺すような刺激を何度も受け、滑稽なほど跳ね回る体。
激痛と快感とがない交ぜになって脳天を突き抜け、瞳からは勝手に涙が溢れ出た。
「隊長」
マーカーの顔が近付いてくる。
耳元で囁かれたその言葉は、逃れられない狂宴の幕開けを告げるものだった。
「壊れないでくださいね」
「な、あっ、ひィ…ッ!!」
ギリッと音がしそうなほど強く前立腺を爪で捻り上げられて、半ば強制的に射精させられた。
「はあっ、あ、ッ、」
同時に口を塞いでいた手を離されて、いきなり酸素を取り込もうとした肺が悲鳴をあげる。
ゲホゲホと咳き込みながら、目に入ったのはマーカーの三日月のように歪んだ口元。
内壁を引っ掻きながら抜いた指をこれ見よがしに舌で舐めあげられ、羞恥と屈辱で顔が熱くなった。
その時、マーカーが足元から拾い上げたのは銀色のシェーカー。
作りかけの中身が入ったままのそれを手にしたマーカーは、軽くステアしてから蓋を開けた。途端に広がるカカオの甘い香りと、キツいアルコールの匂い。
マーカーはそれを一口口に含んでから唇を重ねてきた。重力に従って流れ込んでくる液体に顔を背けようとするが、顎を捉えられて叶わず飲み下す羽目になる。
「ん、う…。マーカー…ぁ、も、やめ…」
「隊長のお好きな酒ですよ?」
何度か口移しでルシアンを飲まされ、流石に頭がぼんやりとしてきた。
マーカーも少しは飲み込んでいる筈だが、怒りが頂点に達している今では火に油状態だ。
「なら、下から直接飲んでいただきましょうか」
「え…あ…?何…っ」
突然俯せにされ、腰を高く持ち上げられた。
何事かと肩越しにマーカーを振り返れば、あらぬ場所に唇の感触を覚えてアルコールに火照った体が跳ねる。
途端に、その行為の意味を理解してしまった。
「待てっ、や、死ぬ、死ぬってマジで!!ひ、ッ…――――?!!!」
熱い。
その唇が触れる部分が、内壁が、腹が。
無理矢理に胎内に送り込まれたアルコールのせいで、焼かれる。
「あつ、い…!嫌だ、マーカー、いや…だ、ぁ…」
視界が回る。
シーツに溺れそうになる感覚に襲われ、藻掻くように必死でその白い布を掴んだ。
直腸からダイレクトに吸収されたアルコール分が、身体中を暴れまわる。
「う…あ……」
「溢さず、全部飲めましたね」
床に放られたシェーカーがカランと音を立てたが、それも、マーカーの声も、どこか遠くで聞こえているようで耳に入らない。
呻きのような声だけが口から漏れる。
ぐるぐると、世界が回る。
「マ…カぁ…」
「何ですか?」
再び体を仰向けに起こされ、冷ややかに見下ろされた。
調子に乗って飲ませたりするんじゃなかった、とか。
調子に乗って誘ったりするんじゃなかった、とか。
後悔先に立たずとはよく言ったもので。
と言うか、むしろ今はもうそんなことはどうでもよくて。
「たす、け…っ!ぁ…つ、あつ…ぃい…ッ」
もう、自分でも何を口走っているのか分からない。
内側からジリジリと焦がされるような熱に、頭がどうにかなってしまいそうだった。
「全く…」
涙やら何やらでくしゃくしゃになっているであろう顔を、存外に優しい手つきでそっと撫でられて気持ちがいい。
「隊長に反省しろなどとは言いませんが…せめて覚えておいてください。私が、酒を過ごせばどうなるか」
「おぼえ、とく…」
「自分でも抑えが効きませんので。隊長が敵なら焼き殺してましたよ、多分」
「ン…ぁ……」
恐ろしいことを言いながら、足を大きく開かされる。
マーカーがズボンの前を寛げ、取り出した自身の先端が溶けきった後腔に触れるのが感じられた。
ヌルヌルと先走りを塗り付けるような動きに、自分も腰が揺れる。
「まあ隊長の可愛らしい格好も見れたことですし、虐めるのもここまでにしておきます」
「ぅ、あ、はやく…ッ」
「…聞いてますか?」
「ぃ…ッぁあア!!」
一気に奥まで捩じ込まれたマーカー自身の先端が前立腺を突き上げ、呆気なくイってしまった。
一度ならず二度までも前への刺激無くして達してしまい、本当に体がどうにかなってしまったんじゃないかと空恐ろしくなる。
「ァ…あ…っ」
「随分敏感になってますね…。この際、最大限気持ち良くなって頂きましょうか…ッ」
「ひあッ?!あっ、や、それ、やだああッ!!」
奥まで突き入れられたまま、前立腺を何度も押し上げるように腰を入れられて子供のように喚いた。
シーツを掻き乱して逃れようとしたが腰を両手で掴まれて引き戻され、更に強くなった突き上げに眼前に星が飛ぶ。
「あぐっ、く、ひ…っ?!や、何、なんか…変…ッ」
「ああ、そのまま、身を任せて」
何度目かの突き上げで突然体が震え出した。
心臓がまるで早鐘のように脈打ち、呼吸すらままならない。
「なン…ッ、これ…嫌、ぁ、んっ、ら…めッ」
「舌、回ってませんよ隊長…っ」
「あッ?!ア、ひィッ―――!!」
色気の欠片もないような情けない喘ぎと共に、突き上げられて訪れたのは死ぬんじゃないかと思うぐらいの絶頂感。
体は背が浮くほどに反り返り、痙攣し、閉じれぬ口からは唾液がダラダラと溢れる。なのに。
「ぃあ…ア、う」
「は…、空イキは初めてですか?隊長…」
何も出ず、萎えたままの自身が信じられなかった。
しかし長く続く絶頂感はいまだにビリビリと脳を灼き、気を失うことすら許されない程の快感が背骨を軋ませる。
射精を伴わない絶頂がこれ程凄まじいものだとは、思わなかった。
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