本棚2
□眠れぬ日々にピリオドを
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「そろそろ、よろしいですか?」
ハーレムが落ち着いた頃、ドアが控え目にノックされて外から高松の声がした。
「――ああ、いいよ」
泣き疲れてマジックに寄りかかっていたハーレムはぼんやりとそのやり取りを聞いていただけだったが、高松が入ってくる前にマジックは顔だけは拭ってくれた。
瞼が重いのは泣いたせいだけではあるまい。
「オヤ、大人しいですね。この人のしおらしいトコなんて初めて見ましたよ」
「私もだよ、驚きだ。横にさせようか」
「いえそのままで構いませんよ、あれだけ喚くエネルギィがあれば大丈夫でしょう。ちょっと失礼します」
近付いてきた高松がハーレムの顎をひょいと軽く掬い、視線を合わさせる。
「ぃ…ッ」
何とか焦点を合わせようとしたら、左眼の奥がズキリと痛んだ。
「痛むんでしょう?秘石眼を考え無しに酷使したツケです、反省なさい。全くアンタといいサービスといい、心配ばかりかけるのはさすが双子としか言い様ありませんね」
「サービス…は…」
「隣の部屋にいますよ。会うのはまた今度にして、とにかく今は回復に専念なさい」
存外に優しい手付きで頭を撫でられて、ひどく擽ったい。
「…オメーが優しいなんて気持ち悪ィ…」
「大人しいアンタだって充分気味悪いですよ」
そう言うと、高松は改めてマジックの方に向き直って姿勢を正した。
「精神面はもう問題無いようですね。ただ体の衰弱が激しいので治療の為このまま医局で預かります。よろしいですね?」
「ああ。世話をかけるね」
「全くです。回復したら新薬の実験台にしてやりたいくらいですよ」
「ハハ、お手柔らかに頼むよ。…ん?」
不意に増した重みに違和感を感じて腕の中を覗き込むと、ハーレムが静かに寝息をたて始めていた。
泣き腫らした目元やその下に出来た隈が痛々しいが、先程とは違った穏やかな寝顔にマジックも高松もほっとする。
「惜しいなぁ、カメラを持ってくれば良かったよ」
「止してください。ハーレムに知られたら本部を潰されます」
「この子ならやりかねないねぇ。しかし勿体無いな」
「…まあ、気持ちは分からないでもないですが」
多分、回復すればハーレムはまた戦場へと飛び出していく事だろう。
幼い頃からとっくに決めていた道を時には立ち止まりながら、それでも迷うこと無く進んでいくだろう。
だがそれでも、どうか迷わぬようにと願わずにはいられない。
ゆるゆると穏やかな時間が流れて行く。
マジックは、しっかりと腕の中の温もりを抱き締めた――。
眠れぬ日々にピリオドを
「っだー!!思い出しただけでも恥ずいっ!!」
「たまにはいいじゃないか。お兄ちゃんドキドキしちゃったよ」
「眼魔砲」
「――――タメ無しかい」