本棚1―1

□Surprise Night
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【特戦期】


「Merry Christmas,Liquid」


目を覚ますとそこは全く知らない部屋のベッドの上で。
でも聞きなれた声が、聞きなれない声音で、世間にはありふれている言葉を紡いだ。


「は…、え、え?」


当然リキッドは混乱する。

艦のブリーフィングルームで酒を飲んでいた筈では無かったか?
だが潰れてしまう程も飲んではいなかった。
記憶もハッキリしている。では何故?


「キスする前に目覚めるたァ、せっかちな眠り姫もいたもんだ。ま、眠っちまったのもキスのせいだけどな」


黒いガウン姿で笑うハーレムを余所に、リキッドは記憶を手繰り寄せていた。


「…あ!」


リキッドが最後に記憶していたのは、ハーレムからキスされたことだった(それも皆の面前で!)
そう言えば、酒と一緒に何か錠剤かカプセルのような小さな異物が喉を通って行ったような気もする。


「アンタの仕業かよ!」

「人聞きの悪ィこと言うなよ、ちょっとしたサプライズってヤツだ」

「睡眠薬まで使ったらそりゃもうサプライズ通り越して犯罪だろ…。つーかココどこすか?飛空艦じゃないし、本部の隊長の部屋でもないし」

「あ?ホテル。ちなみにスイートルーム」

「はァ?!」


我ながら素っ頓狂な声だった。
訳が分からない。サプライズ?どういうことだろうとリキッドは足りない頭でグルグルと、たっぷり1分ほど掛かって漸く、目覚めた時にハーレムが言った言葉を思い出す。


「あ…クリスマス・イヴ…」

「そーゆーこった、とりあえず風呂行って目ェ覚まして来い。寝室出て右な」

「…あ、の、隊長は?」

「オメーが思ったよか寝坊助だったせいで時間を持て余してな、先に入った。なんだ?一緒に入りたかったってか?」


ニヤニヤと、からかうような笑みを浮かべるハーレムにカッと頬が熱くなる。
「ちっげーよ!」と誤魔化すようにベッドから飛び降りると、振り返りもせずに寝室を飛び出した。
後ろの方で「出てきたら酌しろよー」などと聞こえたが、絶対にしてやるもんか!と鼻息荒く廊下を歩く。


そんな、歩き回れるくらい広い広いスイートルーム。


廊下の脇にはいくつものドアと品の良い調度品が並び、ふかふかの絨毯に足を取られそうになりながらも、リキッドはバスルームへとたどり着いた。


「え…っ」


なに、コレ。


ドアを開けた途端真っ先に目に飛び込んで来たのは、「Merry Christmas!!」と書かれた札を首から下げ、手に一輪のバラを持たされた大きなマイヒーローのぬいぐるみだった。

それがドアを開けた直ぐの所に置かれた椅子の上に鎮座し、背もたれにはこれを着ろと言うことなのか、白いシルクのバスローブが掛けてある。
飾り紐は赤と緑のクリスマスカラー。所々金糸が使われていて、ほんの少し派手だ。


「…猫足の、バスタブ…」


その奥にあったバスタブは、ファンシー思考なリキッドが好む猫足のもの。
無論、湯はバブルバスに仕上げられており、甘い芳香すら漂っている。

我慢できなかった。

目の前にあったぬいぐるみを腕に抱き、元来た廊下を一目散。


「隊長ぉ!!!!」

「あ?」


きょとんとしたハーレムが「まだ入ってねーのかよ」と、手酌でもしようとしていたのかワインボトルとグラスを手にこちらを向く。
そこに大股に近付いていきボトルを奪い取ると、リキッドはその中身をぐいと煽った。


「ちょ、おい、」

「あいしてますぅう!!」


そのままの勢いでハーレムに飛びつくと、彼は盛大に笑った。
それはそれは楽しそうに。


「だが酒の勢いまで借りられてもなァ」

「睡眠薬使われてもねェ」

「おあいこってか?」

「うん」

「そうだな、おあいこだ」


口角が上がった唇が、近付いてくる。
こちらも負けじと伸び上がり、身長差をゼロにして。


「…で、次の行き先は向こうの風呂か?このベッドの上か?」


酒とキスで火照ったリキッドの耳に低く甘い声が注がれる。しあわせで満たされる。


「ここが、いい」


――隊長の腕の中がいい


そう言いながらしがみ付く腕に力を籠めた。
しあわせ過ぎて泣けてきて。


「リキッド、リキッド」


それに気付いた愛しい人は、泣かれたことに少し戸惑いながらもただ抱き締めてくれた。

名を呼びながら。
「あいしてる」と囁きながら。



そして漸く落ち着いた頃――…



…――リキッドは“俺様へのプレゼントはお前だな”と称してハーレムに美味しく頂かれてしまったのは言うまでもない。


【甘いだけじゃあ終わらせないぜ?】

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