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□Message
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(特戦期、2011年バレンタイン)


「――ま、何とか読める…かな?」


"それ"を見つけたのは全くの偶然だった。

買い出し当番だったGと共に訪れたマーケットの一角に、設えられていたとても華やかなコーナー。
色とりどりの花で飾られた【VALENTINE】の金文字に、正に明日がそうであると漸く思い出したと同時に、己には無縁であると僅かばかり虚しくて直ぐに通り過ぎようとした。

だが連れ立っていたGが、彼の趣味である縫いぐるみ作り――顔に似合わず器用で、しかも可愛らしいクマばかり――に使える小物があるかもしれないと、ラッピングコーナーを中心に立ち寄ったのだ。

何となく気恥ずかしさはあったものの、自分にも新しく縫いぐるみを作ってくれると聞いてそれも吹き飛び、気が付けば二人してリボン選びに夢中になっていて。
我に還ったのはマーカーからの「遅い!」という叱責の連絡が入ったからで、とにかく慌ててレジに向かう途中に、見つけたのだ。

"それ"、を。


「Gさんは大丈夫だっつってたケド、ホントに喜ぶのかよ?ハーレム隊長にバレンタインチョコレートなんて。…しかもこんなのだし」


目の前にある"それ"――板チョコにチョコペンでメッセージを書いて贈ろうという趣旨の、至ってシンプルなキット――をしげしげと眺めていたリキッドだったが、見れば見るほど書いた文字が我ながら下手くそで、それだけだと何とも見映えが悪い。

しかしキットに入っていたキャンディボックスに入れてしまえばそれなりに見えるもので、やや満足しながらリキッドは蓋を閉じた。


「やっべ、もうこんな時間!」


ふと見上げた時計は、既にバレンタインデイを迎えて一時間以上経っていることを指し示している。


「…超早起きしねェとなんねーのに」


――隊長の執務室に、こっそりとチョコレートを置いてくる為にも


自分からであることはバレバレだろうが、面と向かって渡すことにはやはり抵抗がある。
そう考えていたのに、今から寝たのでは思った時刻に起きられるかどうか微妙だ。

慌てて目覚ましのタイマーをセットしてベッドに潜り込んだリキッドは、どうか寝過ごさないようにと祈りながら緊張で冴えてしまっていた目を無理矢理に閉じた――…



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「結局一睡も出来なかったじゃんよ…」


数時間後、キャンディボックスを胸の前に抱えてハーレムの執務室の前に立つリキッドの姿があった。

うっかりノックしかけた手を引っ込め、ドアに聞き耳を立てて中の様子を伺う。
何の音も気配も無いことを確かめてからそっとノブに手を掛けると、普段から施錠などされた試しの無いその扉はいとも容易く開いた。途端、鼻についた煙草のヤニ臭さと、体にまとわりつく妙に暖かい室温。


「――――ッ?!」


そして視界に飛び込んできた光景に声をあげそうになったのを、リキッドは寸でのところで飲み込んだ。


――何で今日に限ってデスクなんかで寝ちまってんだこの獅子舞ッ!


執務室のデスクに突っ伏して寝こけている、ハーレムの姿。
正確にはその豊かな金の髪だけがリキッドから見えているその様は、丸っきりそこに本物の獅子が伏せているかのようで。

だが、幸いにもその眠りを妨げはしなかったらしい。寝息に合わせて規則的に上下している背中を注視しながら、リキッドはさっさと用事を済ますことに決め、そろりと部屋に入り込んだ。


――起きませんように…


気配を消してデスクまで近付くと、幾つも積み上がった書類の小山のひとつの上にそおっとキャンディボックスを置く。
カサ、と紙が擦れ合う小さな音ですら静かな部屋ではハッキリと聞こえてリキッドは一瞬固まったが、これで目的は果たしたと踵を返した。


――否、返そうとしたが叶わなかった。


「……オイ」

「ひゃわあッ!?」


眠っているものとばかり思っていたハーレムが、リキッドの腕をデスク越しにがっちりと掴んだのだ。


「っ…なんつー声出してンだ、オマエ。つーか今何時だ…?」

「たいっ…たいちょ、あの…っ!」

「ンっだよ、まだ5時じゃねェか。…ん?何か…オマエすげーイイ匂いすンな…」

「あ…っ」


半分寝惚けているハーレムが、目をしばたかせながらもリキッドの腕に鼻を近付け、まるで捕らえた獲物を品定めする獣よろしく匂いを確かめている。


「…チョコレートか?」

「あのっ、きょ…今日、バレンタインだから!それでチョコを、えっと…」

「あー…もうそんな時期か」


しどろもどろになりながらもリキッドが空いた方の手でキャンディボックスを指し示すと、ハーレムはほんの僅かに目を細めた。

出来ることなら、その中身を見られる前に退散したい。そう思うリキッドに反して、ハーレムは手を離してくれそうにない。

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