本棚1―1
□Voyage
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(2011年1月インテ配布物)
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俺の人生の残り時間を全部やるよ
だから永い永いお前の時間をほんの少しだけでいい、俺に分けてくれないか?
Voyage
十年近く掛かって漸く見つけ出した、この楽園を約束された島で。
記憶と変わらぬ後ろ姿を見つけたと同時に声も無くただ、暫くその場に立ち尽くした。
――三度、別れがあった
一度目は、挨拶も無しに特戦を抜けやがったとき。見送ることもなくただ、小型挺のエンジン音が聞こえなくなるまでソファで寝そべっていた。
二度目はやたら慌ただしく。
ちょっとした危機が去ったこちらの様子に安堵の表情を浮かべつつも、その目はこれからの旅路を想ってか強く輝いていた。
まあ、その後に訪れた再開の時には更に強くなってやがって少々驚いたが。
そして、三度目。
託された伝言に、冗談で混ぜっ返して直ぐに背を向けた。天の邪鬼な自分には、そうすることしか出来なくて。
――その三度目の別れがもしかしたら
――永遠の別れになるんじゃないかと
――この俺様が柄にも無く怖がってたって言ったら、リキッド…お前は信じるか?
「よォ!」
努めて、平静を装ってそう声を掛けた。
「アハッ……来たンすね」
そう言って笑うリキッドは、幾らか落ち着いたように見える。
外見は二十歳の時のままだが、実年齢はもっと上。当たり前と言えば当たり前か。
「ぬかせ!よーやく島の場所つきとめてやったぜ!」
本当は一も二もなく抱き締めてやりたかったが、その時はオマケが二人も居やがったし砂浜にもゾロゾロと待たせていたから、叶わなかった。
更にはマーカーの弟子と心戦組の女剣士との結婚式だの、パプワ達との再会を祝う宴会だので賑やかに過ぎてゆく時間。
忙しくクルクルと動き回り家事に勤しむリキッドを目で追いながらも、さすがに酔いの回りが早くなったのか少し夜風に当たりたくなって、一人宴の席を抜け出した。
「変わンねェな…この島も」
取り出した煙草に火を灯しながら、ブラブラとあても無く歩き出す。
空を見上げれば満天の星空。記憶と違わぬ美しい空に、思わず溜め息が漏れた。
いつだったか、逃げ出そうとしたリキッドを小型挺に無理矢理乗せて飛び回った時の事が思い浮かぶ。
あの地上の星も、美しかった。
「隊長!」
――嗚呼、コイツも変わらねェな
立ち止まって振り向けば、走ってきたのか少し息が弾んでいるリキッドの姿。
互いに一歩ずつ踏み出せば、手が届く。
そんな距離だった。
「よォ。いーのか?抜け出してきて」
「明日の家事は全部するって約束で、ソージくんが行ってきなよって」
「そォか。…気ィ利くようになったじゃねェか、アイツも。後で礼言っとかなきゃな」
「へへ…」
相方を誉められて嬉しいのだろう。
それにしても、なんて朗らかに笑うようになったのだろうか。
「…髪、切ったンすね」
「ん?ああ…、いい加減面倒でな」
「えー…、勿体無いなァ」
そう言えば、コイツは自分の髪をいじくるのが好きだった。そしてその感触を自分も楽しんでいた。
実を言うとこの島が見付かったという知らせを聞いてから、髪を短くしたのだ。
かつて、一度だけ同じように短く切ったことがある。リキッドとの初めの別れの時に。
あの頃既に関係は持っていたが、まだ若かったリキッドの【赤の番人になる】という重大過ぎる決意を邪魔せぬよう、身を引いた。
すんなりそう出来たのは、恋人同士というより親鳥と雛のような感覚に近かったからかもしれない。
それでも後ろ髪を引かれるような心残りを打ち消すために、切った。
――けど、今度は違う
「もう、伸ばさないンすか?」
「伸ばして欲しいのか?」
質問に質問で返すと、リキッドが軽く目をしばたいた。
「そりゃ長い方が、隊長!って感じしますもん。…うん、伸ばして欲しいっす」
「どんな感じだ。だったら前みてェに手入れはお前がしてくれ。…これから、ずっと」
「ずっと?…え、ずっと…って」
「そのまんまの意味だ。俺はもうお前と離れたくねェ、だから、」
「ちょ、ちょっと待って!」
うつ向いてしまったリキッドが上擦った声を上げた。よくよく見れば、その肩が小さく震えている。
「ヨソ者がこの島に居ちゃマズイか?」
「そうじゃない!そうじゃ、ない…っ」
「それともアレか、やっぱ指輪とか用意しといた方が良かったか?乙女なファンシーヤンキーだもんなァ」
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