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□Happy Halloween!
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(特戦期、2010年ハロウィン企画)


今宵はハロウィン。


「Trick or Treat!!」


そう言いながらブリーフィングルームの扉を開けたら、いきなり左右から腕を掴まれた。
何?!何事?!


「残念だったな坊や。菓子はやらん」

「イタズラしちゃいまーす!」

「…ん」

「んなあっ?!」


右には珍しく楽しそうな中国人、左にはいつにも増して楽しそうなイタリア人。
そして正面にはいつも通りのドイツ人。

いや、いつも通りじゃない。
Gが手に持ってるの、何だ?


「んじゃG、やっちゃって」

「…すまんな、リキッド」


えええ、何そのフカフカ。
髪を少し乱され、なんかの耳と尻尾?がGの手で淡々と付けられていく。仮装、なのかこれ。


「ふん、まるで犬だな」

「狼のつもりなんだけどねぇ、リッちゃんてば可愛いから」

「何なんだよいきなり!」


マーカーとロッドの腕を振りほどこうと暴れるが、やはりと言うかびくともしない。
耳を付けられた頭もブンブン振ってみたけど、ヘアピンみたいなので付けられているのか取れそうに無かった。


「ハイハイ暴れないの。G、リッちゃん掴まえといて」

「逃がすなよ」

「…ああ」


今度は後ろからGに羽交い締めにされる。
ほんと何なんだ。また隊長辺りの思いつきか?それにしちゃ当人が見当たらない。


「せめて説明しやがれって!なあ!」

「…イタズラ、だ」

「答えになってねー!」

「うるさいぞ」

「むぐっ」


喚いていたらマーカーに手のひらで口を塞がれ、強制的に黙らされた。

そこまでされるとさすがに不安になってきて、暴れるのをピタリと止める。
よくよく考えれば、この面子が素直に菓子などくれる筈はないのだ。


「じっとしててねリッちゃん」

「ンッ!?」


横から突然ロッドの声がしたかと思ったら、首筋に指が触れる感触と、バニラのような甘ったるい匂い。
鼻でしか息が出来ない分その香りが強い刺激になって、思考を妨げる


「私にも少し寄越せ」

「あいよ。んー、良い匂いだねぇ」


小さな缶に入ったクリーム、のようなものだろうか。それが、2人の手で肌が露出してる所に少しずつ塗られていっていた。


「ん、ン!」


耳朶や首筋、とにかく皮膚が薄くて敏感な所を撫でられてくすぐったくて仕方がない。

身を捩って逃れようとするが、Gの腕に捕らえられていてはそれも叶わず途方にくれる。


「しかし、良い反応をする」

「ま、隊長が仕込んだわけだし?」

「それに若いからな、肌のキメも良い」

「んぅっ?!ん、っふ!」


隊服の前が大きく開いているのをいいことに、マーカーが胸の真ん中、心臓の真上辺りから喉元までゆっくりと指を滑らせていく。

その動作に、若干の恐怖を覚えてギュッと目を瞑った。するといつの間にか溜まっていた涙が、ポロリと溢れて。


「…マーカー。あまり、苛めてやるな」

「隊長以外に触れられるのは嫌、か」

「は、あ…っ!」


漸くマーカーの手が口から離れて呼吸が楽になる。くたりと力が抜けて膝から崩れそうになったのを、Gが支えてくれた。
うう、甘ったるいし気持ち悪い…!


「ホラホラ、泣かないの。このボディバターいい匂いデショ、舐めてみる?」

「っいらねぇ!も、何なんだよホントに!」

「おー怖ぁ」


涙目のまま睨み付けると、ロッドがわざとらしく降参のポーズをして見せた。


「いやちょっとね、隊長に可愛いリッちゃんをプレゼントしようかなーっと」

「ハァ?!」

「第一、あの隊長がハロウィンに坊やを放っておく筈もないだろう」

「…どうせなら、目一杯喜んで貰えばいい」


たった、それだけの理由でコレ?

親切なんだか迷惑なんだかよく分からないけど一応、納得はいった。


「ハイ、リッちゃん。あーん」

「…あ?」


思わず口を開いたそこに、小さなハート型をしたチョコが放り込まれた。


「あまい…」

「Happy Halloween!隊長のトコ、行っといで。多分まだ自室にいるから」

「ん…、分かった」


上手く乗せられた気もするけど、年に一度の行事だし、まあいいか。


「…カボチャのプリン、作ってある」

「食べたいなら、無事でいられることを願っておけ」

「マーカーが言うと洒落になんないっつーの!G、プリン取っといてくれな」


じゃあ行ってくる、とブリーフィングルームを後にする。

隊長は、一体どんな顔をするんだろう?
それを考えると足取りも何だか軽い。

ドキドキと鎮まらない心臓を抑えながら、隊長の部屋の前でひとつ深呼吸をしてから、そっと扉をノックした。


「失礼、します」



Happy Halloween!

――おう、入れ


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