本棚1―1
□AfternoonTea
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(PAPUWA期)
本日のおやつは優雅なアフタヌーンティー風にまとめてみた。
理由は簡単、丁度色んなお菓子の材料が中途半端に余っていたから。
たくさん拵えて、ティースタンドや皿に盛り付けて並べればそれなりに見映えするし、何種類も作ったからちみっ子たちに受けも良かった。
ハーレムも途中から乱入してのてんやわんやのティータイムは、ちみっ子たちが遊びに出掛けたことでやっと緩い時間を迎えつつある。
「そうやって静かに座ってたらホント、英国紳士って感じだよなー、隊長」
スコーンにジャムをつけてかじりながら感心したように言うと、隣で新聞を読んでいたハーレムが顔を上げた。
まあ競馬新聞読んでる辺りは紳士じゃないけど黙っとこう。
「そりゃ誉めてんのか?貶してんのか?」
「誉めてます」
きっぱりそう言うと、ハーレムは照れ臭そうにまた新聞に目を落とす。
意外とストレートな言葉に弱いのは相変わらずだ。
「紅茶、お代わり注ぎましょーか?」
そう言うと無言でカップを差し出してきた。全く素直じゃないと思いつつ、ティーポットを傾けて、差し出されたカップに紅茶を注ぐ。
「砂糖は?」
「二杯目だし、いい」
「りょーかい」
ゆったりと、時間が流れる。
特に会話も無いけれど、穏やかでいい感じだ。
「砂糖で思い出した」
ふいに、ハーレムがカップを見つめながら口を開いた。
その顔に普段からは考えられないほど穏やかな笑みが浮かんでいて、思わずドキリとする。
「昔、うちに変わった砂糖があってなァ」
「変わった、砂糖?」
ピンと来なくて、おうむ返しにそう尋ねた。
「天然のローズウォーターを染み込ませた薔薇の形の砂糖。角砂糖よか少し大きかったっけな、確か」
「へぇ。俺ンちはそんな優雅なモン無かったっすねー…」
と言うかそもそもアフタヌーンティーの習慣すら無かったから、当たり前と言えば当たり前か。
「と…親父が気に入って買ってきてたとか何とか。ガキの頃だったから、あんま覚えてねェが…」
あ…今、「父さん」って言いかけた?
でもこういう風に家族のことを話してくれるなんて滅多に無いから、突っ込まないでおこう。
「何せその砂糖、そのまま食べたら菓子みたいで美味くてよ。こっそり食っちゃあ見つかって、よく叱られたな」
「あー、何かそれ分かります。ココアの粉だけ食べちゃったりとか、ジャムだけこっそり舐めたりとか」
自分の思い出と重なって、懐かしくて。
ついつい目の前にあったジャムを、それだけ指で掬って口に運ぶ。
特製の、ラズベリージャム。
うん、やっぱり良い出来だ。
「おい。ついてんぞ、ジャム」
「え、どこどこ?!」
「ココ、だ」
慌ててハーレムの方を向いた瞬間、唇に近いところに柔らかいものが触れた。
「ぁー…ジャム塗って食っちまいてェ」
「こっ、この変態という名の紳士め…っ!」
舐められた頬をゴシゴシ擦りながら後ずさると、したり顔のハーレムがにじり寄ってきて始末に負えない。
ちょっと気を許したらこれだ、ホント勘弁して欲しい。
「リーッちゃん」
「なん、すか」
とうとう壁際まで追い詰められて万事休す。さっきまでのちょっと良い話的なノリはどこへやら、だ。
「キス、していい?」
「…意味分かんねぇ…」
いつも、勝手にするくせに。
何を改まってんだか。
「紳士だからな」
「変態という名の、だろ」
ああもう、どうとでもなれ。
諦めて目を閉じる。
その瞬間鼻孔をくすぐったのは、レディ・グレイの華やかな薫り。
それに混じって微かに煙草の味が、した。
AfternoonTea
やっぱり紳士には程遠い