本棚1―1

□おつかれさま
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(特戦期)


「リーッちゃん、構って!」


そう言って、ノックもせずにズカズカと部屋に入ってくるのには大分慣れたけれども。


「いま何時だと思ってンだよ!2時だぞ2時!夜中の!」


折角ウトウトとしていたところを起こされた不機嫌さも手伝って、枕を投げつけながらそう喚いた。


「あっぶね。寝惚けリッちゃん拝むつもりだったのに、しっかり起きてンじゃねェか」

「これから寝るとこだったっつーの」


つまンねェとぼやきながら投げ返された枕を掴み取って抱えると、ベッドの上でのろのろと身体を起こす。


「お、構ってくれンの?」

「…シませんからね」

「別にいい」


え、と軽く目を見開くと、丁度ハーレムがベッドの縁に腰を下ろすところだった。

珍しいこともあるもんだ。
あの、ハーレムが。


「あー…だりィ。ちょっと肩揉んでくれや、リッちゃん」

「えー?普段嫌がるじゃないすか。年寄り扱いみたいでやだって」

「書類ばっか見てて肩凝った、気がする」


何だそりゃ。

そう言えば書類が溜まってるとマーカーがぼやいていたのを思い出す。
きっと、遂に怒られてしまったに違いない。


「ってことは、もしかして今までかかったンすか?デスクワーク」

「…まだ残ってる」

「げ、そんなにあったンすか」


どれだけ溜めてたんだろう。
暫くマーカーに近付かない方が良いかもしれないなと考えながら、ハーレムの背中へと身体を向けた。

少し、猫背気味になっている広い背中。
父を思い出す、と言ったらハーレムは怒るだろうか。


「んじゃ、失礼しまーす」

「んー」


両肩に手をかけて、軽く力を籠める。

だるいと言う割には、そんなに凝っていないような手応えだったので、余り力を入れずに揉んでいく。
時折、痛いのか気持ち良いのか、ぴくりと跳ねる背中が何だか可愛かった。


「も、ちょい下…」

「この辺?」

「んッ、あー…きもちー…」


言われた辺りを親指で押してやると、何とも気持ち良さげな声が上がって。


「肩っていうか背中じゃん、凝ってるの」

「そうかァ?じゃ、背中もヨロシク」

「もー。だったらこっち来てうつ伏せンなってください、隊長」


今まで座っていたところから少しずれてやったら、ハーレムは素直にうつ伏せでベッドに転がった。

いつもと違って主導権がこちら側にある。
それが楽しくて、ついついその背中を指でつついてみたりするが、どうもハーレムの反応が鈍い。


「隊長、もしかして眠い?」

「眠くねー。折角リッちゃんにマッサージしてもらってンのに、もったいねェ」

「ハイハイ」

「ぐえっ」


腰に、跨がってやった。
こっちは眠いのに起こされた仕返しだ、ざまみろ。


「てめ、…ッ」

「この方がやりやすいンすよ。均等にマッサージ出来るし、気持ちいいでしょ?」


さっき言われた辺りを体重をかけてぐいと押すと、ハーレムが枕に顔を押し付けて息を詰めた。

その様子に笑いを堪えながら、ゆっくりと背中全体を揉み解していく。


「ふ…っ、う、」

「やっぱ背中の方が凝ってたみたいっすね」

「ン…ッ、座りっぱなし、だったからな、っ…!」

「あ、ここ?」


腰近くまで来たとき、それまでで一番大きくハーレムの身体が跳ねた。

力を込めすぎないよう注意しながら、手のひら全体を使って押していくと、そのたびにハーレムが小さく呻く。


「…んぅ、…ふ…」

「なーんか…色っぽい…」


口にしてしまってから、ヤバい、と息を飲んだ。

からかうのは大好きだが、からかわれるのは大嫌いなのだ、この男は。

しかし。


「…あれ…?」


身構えていたのに何のリアクションもない。
そればかりか、いやに静かだ。


「…寝て、る」


うつ伏せになって、顔を少し横に向けたまま、ハーレムは静かに寝息をたてていた。

そおっと身体の上から降りると、その寝顔を覗き込む。

狸寝入りじゃないよな?と頬を軽くつついてみるが、身動ぎひとつしない。
相当、深く眠っているようだった。


「珍しー…」


寝顔は何度か見たことはあるが、ちょっかいを出したら直ぐに目を覚ますのに。

でも、嬉しかった。

こんなに疲れてるのに、何だかんだ理由を付けて自分を構ってくれることが、すごく。


「おつかれさま、ハーレム隊長」


その、無防備な頬に口付けて。

寝顔を眺めながら隣にころんと横になり、自分もまた、静かに目を閉じた――…。


おつかれさま

(起きたら、書類手伝おうっと)


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