本棚1―1

□どこが好きなの?
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(PAPUWA期)


「あ、枝毛」

「んあ?」


硬そうなのに意外とサラサラとした金の長い髪の感触が好きで、普段から機嫌が良いときはこうして好きに触らせてくれる。

今日も、遊びに出掛けた子供たちと入れ違いにやって来て茶を飲んでいたハーレムの髪を、何となくいじっていたら、見つけた。


「ンなもん放っとけ」

「えー、ダメっすよ」

「じゃあ、抜い…」

「もっとダメ!!」


こちらの剣幕に驚いたのだろう。
湯呑みを置いて振り返った顔は、何とも不思議そうな顔をしている。


「何でだよ」

「抜いたら毛穴と頭皮が傷むンす。やたらに抜くと次に生えてくる髪も元気無くなるし、頭皮全体が段々地盤沈下して将来的には顔までたるむから、抜いちゃダメっす!!」

「ぉ、おう…」


あ、ちょっと引いてる?

でもこのまま放っておいて、もしハーレムの頭が禿げたり顔がたるんだりしたら…。


「…うーん、想像つかねー」

「何の想像だ、何の」

「ぁ痛ッ」


デコピンを食らわされた痛みで、意識が空想から現実に引き戻される。


「放っとくのも抜くのもダメってんなら、切れってことか?」

「そ、そうっすね」


ずきずきと痛む額を擦りながら涙目になって返事をすると、ハーレムは何か考え込んでいる風だった。

何だろう、そんなに難しいことなのか?


「…あのザリガニに、切って貰えと?」

「カオルちゃんっすか?まあ枝毛くらいなら、俺でも切れますけど」


そう言うと、あからさまにホッとした顔をした。

何だ、そんなことで考え込んでいたのか。


「って言うか、枝毛になってるやつだけちょこっと切るだけなんすから」

「それを先に言えっつの。だったらさっさとやれ、オラ」

「いってぇ!!」


再びデコピンを食らわされた。
理不尽だこんなの!

ぶつぶつと文句を言いながら、仕舞ってあるカット用のハサミを探す。
でも、デコピンで済ませてくれている辺り、今日は本当に機嫌が良いのだろう。
さっきまでいじっていた髪の感触を思い出して、自然、頬が緩む。

探し出したハサミを持って、黙々と茶を啜っているハーレムの元に戻ると「刃物持ってニヤニヤすんな」と気味悪がられた。


「べ、別にニヤニヤなんかしてねえ!…マーカーじゃあるまいし」

「…青竜刀持ってニヤニヤされてみろ、怖ェぞマジで」

「うわあ…」


特戦に居た頃にそういうマーカーをたまに見掛けたが、ハーレムをビビらせるというからには怖さに磨きが掛かっているのだろうか。

ちょっと、ゾッとした。


「…んじゃ、ちょっと枝毛探すんでハサミ持っててください」

「ん」


ハーレムにハサミを預け、さっき見付けた筈の枝毛を探す。

大体の位置は覚えていたので、直ぐに見付け出すことが出来た。


「たいちょ、ハサミー」


少し、もったいない気もするけど。
でも仕方ない。


「動かないでくださいね」


受け取ったハサミを持って、その枝毛の毛先から3cmくらいのところに刃をあてる。

シャキ、と一息に切り取って、おしまい。


「終わったかー?」

「あ、ハイ」


ハサミと、切り取って指に摘んだ髪の毛も何となく一緒にテーブルの上に置く。

もう少し触っていたくて、サラサラと揺れる髪に手を伸ばしたら、不意にハーレムがこちらを向いた。


「…何だ、まだ遊び足りねェのか?」

「だって、綺麗だし。隊長の髪」

「髪だけかよ」

「あ、顔も綺麗です…よ…?」


あれ、何かとんでもなく恥ずかしいこと言った気がするんだけど。


「何で疑問系なんだよ、コラ」

「うわ、たいちょ、近い…!」


ハーレムの顔は男の自分から見ても、恐ろしいほど整っている。

なのに、急に近付けられて心臓が跳ねた。


「それだけか?」

「へ…っ?!」

「髪と、顔だけか?」


そんなわけ、ない。
何て言ったらいいんだろう。


「……全、部?」

「だから何で疑問系なんだよ、お前は!」

「ぎゃっ!」


やっとそれだけ言葉にしたら、やけに楽しそうなハーレムに本日三度目のデコピンを食らわされる――…



…――と、思ったら。


固く目を閉じてそれを待つが、いつまで経ってもその衝撃がやってこない。

その代わり。


「ん、ぅ…?!」


唇に触れた柔らかい感触に驚いて目を見開くと、視界一杯の、金色。


「たい、ちょ?」

「髪と、可愛いこと言いやがった礼、な」


そう言うアンタこそ、照れてて可愛いんですけど!

それが顔に出てしまったのだろう。
照れ隠しに本日三度目のデコピンを本当に食らわされる迄、2秒とかからなかった――。


どこが好きなの?

全部!


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