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□グッバイ、オニオン!
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(PAPUWA期)


「ねぇ、隊長」


昼下がりのパプワハウス。

相も変わらず昼食をたかりに来てくつろいでいるハーレムに、リキッドは洗い物をしながら声をかけた。


「あン?何だよ。飯なら美味かったぜェ、さすがリッちゃん」


どうやら機嫌が良いらしい。
そうあたりをつけて、リキッドは兼ねてからの“計画”を実行することにした―――。



「お粗末様で。んで、実はですね。ロタローのことなんすけど」

「おう」

「どーーーっおしても、タマネギ食べてくれないんすよ」

「…ほお」


さて、どう出るか。

ハーレムのタマネギ嫌いは、マーカーから聞いて知っている。
だが、たまたまロタローもタマネギ嫌いだったので食事にタマネギを使ったことは無かった。


「ガキの頃の好き嫌いなんてのは、成長したら無くなっちゃうんでしょうけど」


洗い物を終え、2人分のコーヒーを淹れてからハーレムの正面に腰を下ろす。
チラと見やれば、何とも複雑な表情になっていて。


「やっぱ、食べて欲しーんすよね。そしたらもっと色んな料理食べさせてやれるし」


ず、とコーヒーをすすりながらハーレムの様子を窺う。
そしたら、目が合った。さすがに少し気まずいが、台所を預かる者としてはここで引くわけにもいかない。


「…食いたくねェってモンを、無理に食わさなくてもイイだろ。大体――…」

「大体?」

「―――敵だ、あんなモン」


リキッドは思わず手に持っていたカップを取り落としそうになった。


(タマネギが敵って、アンタ歳いくつだよッッッ)


言ってしまってから恥ずかしくなったのか、ハーレムはプイと横を向いてしまった。
その様子が妙に可愛くて、笑い出したくなるのを必死に堪える。


「笑うなコラァ!!」

「わ、わ、暴力反対ーッ!!」


首根っこを掴まれて吊し上げられ、拳を振り上げられる。
だがそこまでされても面白さの方が勝ってしまったのか、笑うのを止められない。

決して馬鹿にしているわけではないのだ。
不意に見付けてしまった思いがけない可愛さが楽しくて、嬉しい。


「あだっ!?」


急に手を離され尻餅をつく。
何だ、と見上げれば珍しくばつの悪そうなハーレムがいて。


「たいちょ…?」

「…悪ィかよ、食えなくて」

「いや、悪いとかじゃなくて…。実は…知ってたんです。隊長がタマネギ嫌いだって」


だったら――と口を開こうとしたハーレムを制して、リキッドは続ける。


「それ聞いたとき、オレ嬉しかったんです。隊長の弱点知っちゃったみたいで」


よいしょ、と座り直して姿勢を正す。
つられたように、ハーレムも元の位置に腰を下ろした。


「だから、ハーレム隊長」

「…何だよ」

「敵、倒しちゃいましょ?一緒に」



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ニコ、と笑いかけられて言葉に詰まる。

かつての兄達のように、頭ごなしに「食え!」と言われたなら突っぱねようもあったのに…と、ハーレムは頭を抱えた。
リキッドの方を見やれば、ニコニコとこちらの出方を窺っている。

ここで怒り出したら負け、か――。
そう悟って、ハーレムは腹を括った。


「…不味かったら承知しねーぞ」

「了解!」


喜色満面、リキッドは勢い良く立ち上がった。善は急げと言わんばかりの勢いにハーレムは面食らう。

今しがた昼食の片付けを終えたばかりだというのに、また台所に立つリキッドが不思議でしょうがなかった。


「もう作んのか?」


自分も立ち上がり、リキッドの後ろからその手元を覗きこむ。
冷蔵庫から出したばかりのタマネギがゴロゴロと転がっていて、思わず「うげっ」と声をあげたら、見るのも嫌なのかとリキッドに笑われてしまった。


「結構手間かかるんす、あめたまは」

「あめたま?」

「飴色タマネギ、略してあめたまっす。良い機会だから多目に作って冷凍しとこーかなと」


そう言いながら今度は軽く洗ったタマネギを次々とみじん切りにしている。
料理に関しては素人のハーレムから見ても、見事な包丁さばきだ。

自分の嫌いなものを刻んでいることもすっかり忘れてその手元に気を取られていたが、ふと気付いた。


「思ったより臭わねーのな」


子供の頃はこの刺激臭が部屋に充満するたびに憂鬱になったものだ。
しかし今はこんなに近くに居るというのにあまり気にならない。


「よーく冷やしてから切れば、目に染みないんすよ!」


成る程、確かに調理しているリキッドも平気そうだ。
しかしそれ以上に楽しそうな姿を前にして、ハーレムも何だか楽しくなってきた。


「なァ」

「はい?」

「面白そーだから俺様にもヤらせろや」

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