GIFT

□スクールラブってなんだっけ
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ぱかり、と、リキッドは目を開けた。
気を失っていたらしい。また医務室の世話になってしまったのかとため息を吐きながら、体を起こす。

「おう、起きたか」

すると見慣れた部屋で耳慣れない声がした。
とは言え、ここの主である高松が留守にすることはままある。特に驚きはしない。

「ドクターの代理の人っすか?」

向きを変えて声の方にそう問い掛けると、その人はひとしきり豪快に笑った後で「まあそんなとこだ」と言った。

「お前、ココの士官候補生だよな」

ココ、とはこのガンマ団士官学校のことに違いない。リキッドは頷いてから改めて目の前の人物を観察した。
年齢はドクター高松と同じくらいだろうか。代理かと尋ねられて「そんなところ」と答えた辺り、たまたま訪れたドクターの知人なのかもしれない。
だがそれ以上に気になるのは、彼の派手な金色の頭に青い両目だ。ガンマ団を束ねている一族の色。

「先生は、青のひと?」
「見た目で判断すんならお前だって金髪に青い目だなァ」

確かにそうだ。でも、答えになってない。
そもそも答える気も無いようで、「元気そうだからいいよな」などと言いながら煙草を吸い出す始末。高松の所在を確かめるわけでもなく、かと言って己の身分を明かすわけでも無い。

「リキッド、だったか。よくあるのか?」
「よくある?」

――何者なんだろう。
そう不信感を抱き始めたところに不意に問い掛けられて、思わずおうむ返しになった。

「オーバーロードだよ。特殊能力は電磁波だっけか? 使い方がヘタクソってーよりは、手加減をし損ねたみてぇだった。違うか?」
「……ちが、わない」

自分の名前と、直前の様子を知っていることからしてガンマ団の内部関係者であることは間違いないようだ。それも多分上位の。
たまたま居合わせたのだろうか、リキッドは考える。ガンマ団の上官達が士官学校の実戦訓練を見学するのはよくあることだ。

「そのうち死ぬぞ」
「でも、俺、強くなりたいから」

しかし単純な格闘技による組手ならともかく、今日のような実戦形式の訓練は苦手だった。
指摘されたように、加減が出来ない。それでも無理矢理に抑え込もうとして結果的にオーバーロードを引き起こす。倒れるのももう何回目だろう。

「……お前は、ココじゃ強くなれねえわ。他の奴らと明らかにレベルが違ェ。てめぇの力が如何に桁外れなのかをまず理解しろ、手加減を覚えるのはそれからでいい」
「な、んなんだよ、さっきから、一方的に。だって弱いままじゃ、ダメなんだ。強く、はやく強く、ならなきゃ、俺」

頭がぐらぐらする。
怒りなのか、悲しさなのか、虚しさなのか、よく分からない感情が行き場を失って体の中で暴れている。
リキッドだって解ってはいるのだ。縋る思いでココに来たのに思い知らされた。異能の者が集まってなお、自分がバケモノだという事を。

「俺と来るか?」
「ッ、は、あ?」

意味を計りかねる。
誰と?

「先生、と?」
「……その“先生”ってのは、悪くねえな」

その時だった。
ガタガタと、窓が揺れ出す。
音だ。エンジンの音。この空気を盛大に揺さぶる独特の音を、リキッドは一度だけ聞いたことがあった。

「特戦の飛空艦、なんで」
「知ってんのか、じゃあ話は早ェ」
「うわっ?!」

いつの間にか詰められていた距離に、驚く暇も無く体が浮いた。
横抱きにされている事に気付いたものの、何もかもが突然すぎて頭がまったくついてこない。どころか、反射的にしがみ付いてしまい、いよいよもって混乱に拍車がかかる。

「せんせ、ちょ、あのっ」
「なんだよ、さっきもしてやったろ?」
「さっきとか知らねえって! じゃ、なくて!」
「お前がお得意さんの一人息子だとか、そーゆーの俺、気にしねえし。合衆国大統領ってのはお前の父親であって、お前じゃねえ」
「――な、ぜんぶ、知って」

いよいよ二の句が継げない。
なんだ。何なんだ、この人。

「俺と、来い」

そもそも、宝石みたいな青い瞳に真っ直ぐみつめられると何も言えなくなってしまう。
だから気が付いたら首を縦に振っていた。

「決まりだ。――まあ、どのみち返事はハイかイエス以外認めねえけどな」
「先生は、」
「ああ、何かオマエ勘違いしてるみたいだけどよ、先生じゃねーぞ俺」
「へ?」
「特戦部隊のハーレム隊長様だ」
「――ッ?!」

今度こそ、リキッドは声にならない悲鳴をあげた。
ガンマ団総帥、マジックの実弟で、青の一族の直系も直系。若干名でこそあれ一騎当千の隊員を従え、掲げた信念は攻撃目標全破壊。
その特戦部隊の、ハーレム隊長。

「ウチのモットーは攻撃目標全破壊だかンな。好きなだけ暴れられるぜぇ?」


その人はそう言うと、まるで悪戯が成功した子どもみたいに笑ったんだ。





「――っていう出会いだったら良かったのに」

長々とした夢物語を、歌うように口にするリキッドの目は恋する乙女のそれであった。
本物の恋する乙女なんて実際見た事ねえけどよ、ともハーレムは思う。

「アタマ大丈夫か?」
「ひどい」
「欲求不満か? 今からヤるか?」
「もっとひどい」



【まずは“先生”って呼んでみな】



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