GIFT
□人を呪わば穴二つ
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「そもそも隊長が風邪を引くっていうシチュエーションがありえないんですケド。どうせ飲み過ぎて外ででも腹出して寝てたんでしょ。歳を考えてくださいよ、歳を。47歳っすよ。ガキじゃないンすから」
矢継ぎ早にリキッドから浴びせられる言葉は、普段なら最後まで言わせずに一発拳をくれてやってるところだ。
しかし我ながら情けないことに、たった一言掠れた声で「うるせえ」と返すことしか出来なかった。
これまではどんな場所でも一晩寝て明かして大丈夫だったのだが、どうにもこの島で気分が緩んだらしい。どこからどう見ても見事な風邪を引いてしまった。
それで、いつものような行動に移せない分、精一杯にリキッドを睨んだつもりだったのも一蹴されてしまう。
「涙目で睨まれても迫力無いっす」
心底呆れたと言った声音のリキッドが、冷水で絞ったタオルをぴしゃりと額に乗せてきた。
そんな少々乱暴な手つきにはやはり腹が立ち、唸りながら体を起こそうとするがそれも叶わない。
「結構熱が高いンすから、大人しく寝ててくださいまったく」
リキッドの片手一本で簡単に布団へと押し戻されてしまった体。さすがに、これには参った。
熱を出すなど本当にいつ振りだろうか。己の不甲斐無さに、普段は反省など全くしないが思わずため息を吐く。
「……隊長」
「あン……?」
不意にリキッドが妙に引っ掛かりのある声音で呼ばわった。だけでなく、覗き込んむ顔が覆い被さるように近付いてたかと思うと。
「お、い、――……ッ」
ベロリと、目尻を舐められた。
なんなんだ。
予想外にその刺激が強くて、反射的に体がすくむ。熱で過敏になっているのか。
「なんか、隊長、うまそう」
「――は?」
「目、潤んでるし、息の仕方、なんていうか、色っぽい……」
「ちょ、おま、」
そういえばコイツは、肉体だけは二十歳のままだった。となると、言ってしまえば性欲も二十歳のままストップしている訳で。
「ねえ、」
「ぅ、ンッ、」
ぞろりと首筋を指で撫で上げられ、鼻に掛かったような吐息が意思に反して漏れる。
幾星霜を重ねても、生理現象に直結するそれは理性如きでは抑えつけられないのかもしれないが。だからと言って、これは、この状況は、マズイのではなかろうか。
「食べて、イイ?」
そう言って怪しい笑みを浮かべるリキッドに、正直ぞくりと背中が粟立つ。熱で回らない頭は案の定役には立たなくて。
一瞬、流されてしまいそうになった。
「――ぷ、あっははは!」
「っ、あ?」
突然リキッドが笑い出した。
近かった顔も、離れていく。
「隊長いま本気で焦ったでしょ……ッ」
腹を抱えて笑うさまに、瞬間的に体が反応した。リキッドの胸倉を掴んで引き倒し、反動を利用して体の上下を入れ替える。
「たいっ、」
「うるせェよ」
「ンんぅっ……!」
何事か言い掛けた唇に、噛み付くように口付けて。その後は思うさまに口内を舌で嬲る。
びくびくと刺激に跳ね回ろうとする体を押さえつけるのは、今の自分には大仕事だった。
「てめ、治ったら、覚悟、しと、け」
ぼおっとしてるリキッドに届いたかどうかは定かではない。自分も限界だったようで、直後に眠り込んでしまったのか記憶はプッツリと途切れている。
結局、この時にリキッドにばっちりと風邪を移してしまったらしい。
チビ共から「風邪が移る」と追い出されたリキッドを、今度はこちらで看病と称しつつ美味しく戴いたのは、また別の話である。
【俺様をからかった罰だ】