GIFT

□白に溺れる
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「動くなよ」
言われなくとも動ける訳が無かった。
「ッ、ぅ……」
裸に剥かれ、ペタリと座らされているリキッドは震える。
冷たい床と冷たい靴底、それらに挟まれているのは足の間から頼り無くぶら下がっている己の陰茎なのだ。竦んでしまった身体は、拘束もされていないにも関わらず動かない。
「あ、ア!」
ぐうっと掛けられる圧力。踏んだというよりは力を抜いた程度の筈なのに、じんじんとした痛みが這い上がってこようと腰の辺りで存在を主張する。
そもそも、こんなことになった理由は何だったか――任務でヘマをしたかと思い出そうとしてみても、心当たりは今回に限っては無かった。つまりは適当なのだ。これはハーレムの、ただの暇潰し。
はじめこそ抵抗しようとしたけれど、思いっきり殴られて少しの間意識が飛んだ。気が付けば裸にされていて、床に倒れていたのを引き起こされて。あとは、見ての通りだ。
「動くと千切れっちまうかもしんねーぞォ?」
「ィッ、あ、」
ぴりっと、電気の糸のようなものが踏まれている処と脳を繋いだ。途端、それを伝ってとうとうぞろりと這い上がってくる痛み。
正確には殆どが想像上の痛みだ。身体は、まだ本格的にそれを感じてはいない。なのに腰が引けるのは、本能的に感じ取ったこれから訪れるだろう恐怖のせい。
「ひ、嫌ッ、隊ちょ――ッぅあ、あぁアあ!」
リキッドがたまらず懇願しかけた、その直後。
『痛み』と呼ぶには生易しい、熱い鉄の塊に全身を押し付けられたかのような衝撃に全身の隅々までを襲われる。痛みを感じる神経そのものが焼き切れてしまうのではないか、そう錯覚しそうなほどの激痛が腰から背骨を伝って突き抜けて、頭の中をめちゃくちゃに掻き回した。
「っと、ヤベ」
リキッドの余りにも凄惨な悲鳴に驚いたのか、ハーレムが多少は慌てて乗せていた足を浮かせる。それでも痛みは消えることが無く、脈動に合わせるかのような規則正しさでリキッドの頭を灼いていった。

「はァッ、あぐ、っ」
上げ続けた悲鳴が漸く途切れ、同時に酸素を求めた身体が一転大きく息を吸い込もうとするが、うまくいかない。吐き気すら込み上げてきてリキッドは大きく身体を震わせる。
その瞬間。
微かに、本当に微かにだが、痛み以外の感覚が下腹に混じった。
「――ハハッ」
ハーレムが漏らした笑い声が、飛びかけていた意識を引き戻す。
「リキッド、お前、やっぱマゾだわ」
「あ、ヒッ」
何をと、問う間もなく訪れた突然の快感。
痛みの波を縫うようにして下腹に纏わりついたそれを、確かめたくて視線を落としたリキッドの目に飛び込んできたもの。
「ぅ、そだ、」
こんな。
こんなのは。
「こっちは正直モンだ」
楽しそうに笑うハーレムが足の爪先で小突いたのは、屹立したリキッドの陰茎。それはいつもより真っ赤で、傍目には踏み付けられたことで腫れ上がっているかのように見える。
けれどもそこを発信源として脳に伝わってくるのは紛れも無く快感で。
「あゥッ、ン」
「おーおー、先走りまで溢しやがってベタベタじゃねェか。すぐイけんじゃね?」
「んァあっ、あ、やあぁん!」」
爪先が屹立を根元からゆっくりとなぞり上げていくその刺激に、とうとうリキッドは甘い声を溢した。
真っ赤な痛みで塗り潰されていた意識が、真っ白い快感にあっけなく塗り替えられていく。
「ひぅ、ぅ」
気が付けばリキッドの下腹や太腿にはじっとりと濡れた感覚が広がり、生暖かさが少し遅れてやって来た頃には呆然自失に陥っていた。
目がよく見えないのは涙のせいであるにしても、いっそのこと見えなくなってしまえばいい――この瞬間だけは、本当にそう思った。

「リキッド、おい、リキッド」
「っ、ゃ……、嫌、ぁ」
大きな手のひらの感触。反射的に振り払おうとして、そう言えば初めから拘束などされていなかったことを思い出す。
「痛いコトはもうしねェよ、そんなビビんな」
存外に優しい声音が耳をくすぐり、改めて撫でられた頭に手のひらの暖かさが心地良い。
そう、心地良かった。
「たい、ちょお……」
口をついて出たのは甘ったるい声でなく、優しさに甘ったれた声。
こんな時のハーレムの優しさには裏があると経験から分かっていても、愚直なまでに二の舞を演じてしまう。縋ってしまう。
だってもう、溺れてしまっているのだから。

「次はお互い気持ちイイコトしようぜェ?」

返事は“YES”しか、用意してない。


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