GIFT
□弱点!
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ブリーフィングルームで毎夜のように設けられる酒宴。名目は毎日変わる。それも、毎度毎度くだらない理由。つまり飲めれば何だって良いのだ。
しかし今夜のハーレムは妙に上機嫌で常よりも深く酒に酔っていた。
「たぁーいちょー! なァんか今日はめっちゃべろべろじゃないすかぁー」
いつも絡まれて潰されているリキッドも、ソファの上でフラフラとしているハーレムが珍しいのか、グラス片手に纏わりついている。ハーレムの方も邪険にするでなし、纏わりつかせて好きにさせていた。
「おうリキッド、ちゃあんと飲んでっかァ?」
「飲んでますぅー」
「あーあー、リッちゃんまだ溢してるジャン」
「隊長も、ほどほどにしておかれませんと……」
ロッドとマーカーがそれぞれを少し落ち着かせようとするが、2人共どこ吹く風で「おかわり!」と綺麗なユニゾンを奏でる始末。グラスを突き出されたGがノンアルコール飲料を注ごうと伸ばした手は、ハーレムによって目ざとく見付けられて叩き落とされ、結局アルコールを注ぐ羽目になる。
「……どうぞ」
「おー、サンキュー」
「俺、あまいやつー!」
「……どっちも同じだ。甘い」
Gが2人に渡したグラスには薄いブラウンが掛かった乳白色の液体。カルアミルクかと思われたが、ベースになったものを見るにルシアンのようだ。存外に鬼畜な事をする、とマーカーなどは奇妙に口元を歪めていた。
「隊長のひとくちちょーだい!」
「あア? 同じやつなんだろ?」
「でーもー! 欲しいンす――よっ」
「うおっ?!」
飛び付くように伸ばされたリキッドの手がハーレムのグラスを掠めて、こぼれた中身が隊服の上に散っていく。
「あー、もったいない! でも汚れちまうし……よしっ」
「リキッ……」
誰も、止める暇は無かった。
スカーフだけは外していたが、それなりに着込んだままだったハーレムのシャツをリキッドは脱がせにかかったのだ。勿論ボタンというものは無視して、である。
グラスはいつの間にか取り上げられていた。誰がそうしたかは分からない。それ程までにハーレムは酔っていたのである。
「いっぱいこぼれてるっすよー?」
「は……っ?! ちょ……っ」
これは流石に誰か止めろ!――と酔いも一気に醒めたハーレムだったが、ふと気付けばブリーフィングルームには自分達以外誰もおらず。
さりとて酔いが回り過ぎた体はいう事をきかず、覆い被さってきたリキッドに対してロクな抵抗も出来ない。
――否、酒の所為だけではない。
ハーレムの肩に掛けられたリキッドの両の手、それは的確に相手の動きを封じる関節技(サブ・ミッション)を行使してきていた。
「隊長って右乳首が弱点なンすよね――……?」
「おま、ちょっ、ホンッッット待て!」
関節技も弱点も、教えたのは誰でもないハーレム自身だ。なのにまさかその両方をこんな形で使われるとは思ってもみなかった。リキッドの両手はハーレムを抑えつける為に塞がっている。手を離せばたちまちに逃げられるであろうことはリキッドも解っているのか、決して離そうとしない。
それどころか――
「待てって! どうする気だテメー!」
「え? 手が使えないからー……こーやって……」
「ひっ?!」
「……ホントに弱点なんだァ……?」
舌先がほんの少し掠めていっただけであるのにハーレムの体が大げさに跳ねる。それを見たリキッドが喉の奥で、笑う。
不味い
マズイ
まずい
そればかりがハーレムの頭の中をグルグルと廻る。単純に考えればリキッドも同じように酔っているのだから、腕力その他が元々リキッドを上回っているハーレムが体を起こせば簡単に振り解けそうなものだ。だが、リキッドの次のセリフでハーレムは文字通り固まってしまった。
「コレ、噛んでみたらどうなるかなァ――……」
声も出せない、とはこのようなことを言うのだろうか。
唯一ハーレムに出来たのはキツく目を閉じることだけだった。
「――――あ?」
しかしいつまで経っても何も起こらない。
恐る恐る目を開けたハーレムが見たものは――……
「んー……」
己の体の上で安らかな寝息を立てているリキッドだった。
その後、完全に形勢を逆転したハーレムが、夜が明けるまでリキッドを鳴かせ続けたことは言うまでもない。
弱点!