本棚1―2

□最高の一日の過ごし方
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【2015年ハレ誕、原作終了後】


空がそろそろ白み始めようかという時刻。
薄闇の中に浮かぶ真白いシーツを絡めたリキッドの肢体からは、年月を重ねた色気が漂っていた。
肉体は二十歳のままである筈だが、成熟した大人の雰囲気を纏っているというのは改めて新鮮に感じる。しかし寝顔を覗き込めばあどけなさも残っていて。
「……ギャップがすげェ」
思わず、呟く。
昨夜おいしく戴いた体だ。
日付が変わるやいなや二人してシーツの海に絡まり合って沈んだ。
誕生日だからと、こちらが望むままに奉仕をしてくれたリキッドは未だ夢の中。
こちらが無遠慮に身体を起こそうが、煙草を吸い出そうが、決して小さくは無かった独り言を呟こうが、起きる気配は無い。相当に疲れたのだろうことがうかがい知れる。
それでも目が覚めてしまったからには。
そして目の前に愛しい者があられもない格好で横たわっていては、考えることはひとつである。
「……っん……たい、ちょ……?」
閉じられた瞼にキスをし、癖のついた髪を撫ぜてやれば、リキッドの意識は現へと戻って来た。
寝惚けているのだろう。少しは呼び慣れてきていた名ではなく「隊長」と口にする唇に、軽く音を立てて口付ける。
「起こしたな、悪ィ」
悪い、などとはちっとも思っていない口先だけの謝罪をしながら、もぞもぞと寝返りを打とうとするリキッドの身体を、よいせと向かい合う格好に抱き上げる。
ふにゃふにゃと文句らしきものばかりが耳元で繰り返されるが、放っておくと今にも夢の中に逆戻りしそうだ。なので、少し強硬手段に出た。
「っ、あ……?!」
「おー、まァだ柔らけェな」
両手をもってリキッドの尻たぶをしばし揉みしだいたのち、その奥、つい数時間前まで己が散々に暴いた後腔へと遠慮なく指を突っ込んだ。
そこは、右手の中指一本だけとは言え、ほぼ何の抵抗も無しにするりと根元まで入り込んでしまう程に柔らかい。
「や、なに、」
「起きたら目の前に色っぺーリッちゃん転がってっし、こりゃあヤるしかないわっつー、まあ、本能?」
「むちゃくちゃ、だ、ア……ッ」
抗議しようとしたリキッドだったが、先回りして2本目の指を後腔に滑り込ませれば、今度こそ艶のある声が上がった。
それも、物足りなさそうな声。
何だかんだで二十歳の身体は、ほんの前戯程度とはいえ直接的な刺激にはめっぽう弱いのだ。
「リッちゃんも、欲しいンじゃねェか? ん?」
少し意地の悪さを含んだ声で問えば、羞恥に顔を真っ赤にしたリキッドが悔しそうに睨んでくる。
だがその腕はしっかりとこの背に回された。
それが答えの代わりだった。――


「ん、あ、アぁあっ……!」
背をしならせて絶頂を極めるリキッドの、その体内へと何度目かの欲を注ぎ込む。
ほんのつまみ食いのつもりが、気が付けばこれだ。
空もすっかり明るくなっていて、南国特有の湿気を含んだ熱さが気配を強め始めていた。
「さ、すがに、疲れるなこりゃ」
余韻に震えてまともに口もきけないリキッドを抱きかかえたまま、はあ、と盛大に息を吐く。
流石に腹も減った、そう思った途端に空腹を主張し出す胃袋。自分では無い、リキッドだった。
「おーおー、散々人から絞りとっといてまだ足りねェか?」
「ば、か……っ」
「冗談だ。ほれ、コレ食っとけ」
「んぐ」
言いながらリキッドの口に押し込んだのは、昨夜頂戴したささやかなプレゼント。
向こうが透けて見える程美しいオレンジピール。
輪切りになった、その半分をチョコレートで覆ったオランジェットは、甘い物が少し苦手な自分の口にも良く合った。
好みを熟知しているリキッドが手間暇を掛けて作ってくれたのだろう。
物自体は高価な物でも珍しい物でもない。
だが特別な日に、特別な時間を共有しているということこそが、かけがえのないものであると最近ようやく身に沁みるようになった。
昔だってなんとなく、そう思わなかったわけではないが、落ち着いた今だからこそ全力で享受出来るのだろう。
歳くったなあ――とは口にはすまい。
代わりに口にしたのは、リキッドにくわえさせたオランジェットのもう半分。
このまま口付けたらきっと甘くて、ほんの少しだけ酸っぱい味がするに違いない。
けれど今はリキッドの腹の虫を黙らせることが先決なので、そのままくわえたところだけ齧り取った。
「ん。やっぱうめェ」
「……食わせてくれンのか、自分が食いたいのか、どっちなンすか」
残りを食べ終わったリキッドがやや不満そうに唇を尖らせる。
「お前はどっちがいい?」
言いながら、するりと腰を撫でた。
まだ繋がったままであることを知らしめる所作に、小さな悲鳴をあげるリキッドの顔は真っ赤。
流石にこれ以上からかうと怒らせてしまいそうではある。
しかしリキッドが次に発した言葉は実に意外なものだった。
「……食いたいんすか?」
本当に真っ赤な顔のくせに、まあ大胆な事を下の口がしでかすものだから。
ついさっきまで重ねた年齢を噛みしめていたというのに、今はもうセックスを覚えたてのガキの如く、リキッドを鼻息荒くシーツへと押し倒して、そして。
「ほしい」
そう言うのが、精一杯だった。


【気が付いたら夜になってた、やばい】

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