本棚1―2

□溺れるアリスと万聖節
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悪戯か、お菓子か――なんて。
問う余裕は無かった。
問う暇も、無かった。

「は、ァ、あ」

閉じようにも閉じられぬリキッドの口から律動に合わせて嬌声が押し出される。
酒に酔っているのか、それともこのシチュエーションに寄っているのか、頭の中はぐちゃぐちゃでもう解らない。
そんな事はどうでもよくなるくらい、とにかく、気持ちが良かった。

ハーレムも、楽しそうだ。
リキッドに腹の上を跨がせて、下から好き勝手に暴いているようでその実、リキッドの好きなやり方で突き上げてくれる。
頭の中と同じくらい、ハーレムを頬張ったリキッドの胎内も掻き回されてぐちゃぐちゃになっていた。
その粘着質の水音は布に隔てられてくぐもって聞こえる。
布、とはスカートだった。
正確には水色のワンピース、そして真白いエプロン。おまけに、頭には黒いリボンのカチューシャが乗っている。

「とんだアリスも居たもん、だっ」
「ンああっ! あ、は、」

不思議の国のアリス。そのヒロインの格好をさせられたリキッドの、首から下げた白いプレートには「Eat me」と書き付けられている。
それを見たハーレムは「そりゃアリスの台詞じゃねえだろう?」と、呆れながらも笑っていた。
もっとも、リキッドはその時既に泥酔状態だったので、お気に召して貰えた事だけが嬉しかったのだが。

「た、い……ったいちょ、も……!」
「もう、じゃねえ。また、だろ?」
「ッぁ……ま、た……っ」

イく、という動詞は言葉として発せられることは無かった。代わりにスカートの前、その内側がじわりと生暖かい湿り気を帯びる。
布が張り付く感触は少し不快だ。

そんな不快感を叩き壊すくらい、勢いよく突き上げられてリキッドは悲鳴をあげた。
いつの間にか体勢が逆転していて、突き上げられたのではなく、上から打ち込まれたのだと理解するよりも早く脊髄を駆けあがってきた強烈な快感が、リキッドの脳を撃ち抜く。
不規則なリズムで軋むベッド。
同じリズムで上がる水音。
それにやや遅れて自分の声。
大きな手で掴まれた腰が熱い。
穿たれる腹の奥は、もっと熱い。
出撃の前のいつもの情事。それがたまたまハロウィンの夜で、周りに乗せられ流されて。
いつも以上に乱れていることは薄々自覚しているものの、羞恥心はアイスクリームみたいに溶けてしまっていた。

「ひあっ、ア、あああ!」
「ッ、く」

胎内を暴れ回っていたハーレムの欲塊から、浸入してくる熱い濁流。
同時に飛空艦が音を立てて揺れ始める。
目的地がすぐそこにまで迫っている、合図。

「は、ぅ……」

快楽でか、そんな苦しいほどの快楽が終わった安堵からか。
リキッドはポロポロと涙を溢した。

「もっと溺れてみるか? アリスみたいに」

問われたが、もう返事が出来ない。
ハロウィンの夜はお仕舞のようだ。
きっと明日には足元の戦場が殉教者で溢れかえるのだろう。
まとめて祈りを捧げるには丁度いい日だ。
そう、リキッドは薄れる意識の中でぼんやりと思った。


【それにもう、とっくに溺れてる】

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