本棚1―2
□熱い氷をめしあがれ
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【2013年12月特戦オフ配布/特戦期】
滑って転んで頭を打って、気絶した。
そんな間抜けは誰なんだって、この俺だ。
特戦部隊の隊長サマが何とまあ、ダッセェの――。
「あ、隊長起きたぁ……」
ヒンヤリとした感覚を頭に覚えた。
目を覚ました俺の耳に、何ともふわふわ、ほわほわと浮いたような声が上から降ってくる。正体はすぐに知れる、リキッドだ。
「……どんくらい寝てた?」
「んー……っとぉ……、いま十二時っす、夜中の」
そうするとかれこれ六時間近く気絶していた計算になる。記憶が確かなら、俺が恐らく間抜けな姿を晒したのは任務が終了間際になった、夕方六時ごろのはずだ。
ああそうだ。きっと間抜けな姿だったろう。
タラップを降りたところに中途半端に雪が積もっていた。昼間の気温で溶けかかり、日が落ちてからは凍り始めていたシャーベットのような雪。それに足を取られた。
九十度回転した世界。
意識がシャットダウンする前に見えた星は衝撃で飛んだ火花だったのか、本物の一番星だったのか、今となってはどうでもいいことだが、やたらと綺麗だったことだけはハッキリと思い出せた。
「眠そうだな」
「うん、ねむい」
本来なら打ち上げと称してダラダラと酒を飲んでいるような時間帯だ。リキッドは大抵早々に潰されて、床かソファか、俺の膝で眠りこけているような。
何にせよ任務のあった日はこんな夜中に起きていることなど滅多に無い。相当に眠そうで、舌っ足らずな口調で答えはしたものの、今すぐにでも船を漕ぎだしそうだった。
なのに、起きているということは。
「心配かけたな」
「……ん」
寝転がったままで腕を伸ばす。頭をくしゃくしゃと掻き回して、俺にしては珍しく素直に「ありがとう」と謝辞を述べてやれば、やっと、安心したというふうに笑った。
今日、リキッドはほんの少しばかりヘマをやらかしたのだが、それはもう穏便に済ませることに決めて体を起こす。
「隊長、」
「もう何ともねーよ」
咎めるような声にそう応える。
軽く頭を振ってみたが、特にめまいなども覚えない。氷枕の上に乗せられていた後頭部にも、そろそろと手を伸ばしてみたが、コブすら無かった。すぐに冷やしたのだろう。
「コレ、お前が換えてくれてたのか?」
氷枕を指して問えば、リキッドが頷く。
まだ、氷のごつごつとした感触があるということはつまり、何度か中身を取り換えていたはずである。
リキッド本人にそこまで頭が回るとは思えないから、マーカーかG辺りの指示だろう。サイドテーブルには、またこれから換えようとしていたのか、溶けかかった氷が一山盛られたピッチャーが置かれていた。
「あ……」
「――冷てぇ」
所在無さ気にしていたリキッドの腕を取り、その指先を両手で包む。案の定、冷たかった。
「隊長の手、あったかい」
「起きたばっかだからな」
普段はリキッドの体温の方が高いから、新鮮な体験だ。
そうして暫く、リキッドに暖を分け与えるようにその両手を握りこんでいたが、唐突に「ああ!」と素っ頓狂な声をあげた。
「どうした」
「隊長、飯。飯どうする?」
「あア?」
「晩飯。腹、減ってないンすか?」
「あー……」
そう言えば、食い損ねていた。
しかし、どうもタイミングを逃してしまった胃は特に食べ物を欲しておらず(今回の任務ではあまり動かなかったこともある)、とりあえず用意されていた水だけを飲んだ。あとは煙草で誤魔化せるだろう。
「そう言うお前は、ちゃんと食ったか?」
「食ったっすよォ……育ち盛りだもん。さすがに任務のあとだと食欲に勝てなかったっす」
「デザートは?」
「……プリン」
「ちゃっかりしてやがる」
「え、へへ」
俺の看病にかこつけて、甘い物をねだったんだろう。既成品のスナック菓子ならともかく、プリンなんて可愛らしいものは一から作らなければこの艦には存在しない。多分、いやきっと、作ってやったのはロッドだ。
「あったかくて、美味しかったなぁ」
「……聞いてたら、腹減ってきた」
「え、隊長もプリン食べる?」
「いや――――お前食う」
「へっ?!」
どうしてそういう思考に至ったのかはよく分からないが、まず根本的な原因になったのは、男の睡眠時の生理現象が云々というやつだ。そこにほんの僅かな嫉妬心が加わり、征服欲、つまりこの場合に置いては性的な興奮へと塗り替えられていって。そうしたら、もう止まらない。
「リッちゃん、食わせて?」
「そ、それって、礼は体で……ってこと?」
――一瞬目が点になった。
「……いやそこまでは考えちゃいなかったが……。ってか何か、体で払って欲しいってのか?」
「あ、う」
ここまで来てようやく気付く。
要はリキッドも同じなのだ。眠気を堪えていたリキッドにも、同じことが。
つまり。
「勃ってンな」
「あの、コレは……っ」
「別にエロいこと考えてなくったって勃つモンは勃つんだよ。……まあ、せっかくだし体で払わせてもらうわ、礼。俺もリッちゃん食えるし、一石二鳥?」
「なんか変な理屈ぅ……」
「嫌か?」
「……嫌じゃ、ない」
耳まで真っ赤にしながらも俺の手をしっかりと握り返してくるのが堪らない。それに応えて腕をこちらへ引き寄せれば、その体は抵抗も無くすんなりともたれ掛ってくる。
ベッドへ上がるよううながせば、自ら着ているものを脱ごうとする積極さのオマケ付きだ。脱がす楽しみが無くなるからとやんわり止めたのだが、何せリキッドは若い。一度体に火が着いてしまえば、もう本人にも止められないようだった。
それでいて口にする言葉は控えめでしおらしいものだから、ギャップがかなり激しい。
今だって、俺の下に組み敷かれて「やだ」だとか「まって」だとか言っているクセに、体は服を脱がせやすいよう協力してくる。
若干無意識なのは少々タチが悪い(こっちの理性にも限度がある)から、もう少し定期的に発散させてやるべきか、いやいやそんなことをしたらますますエロいガキになっちまうか――などと考え込んでいたら、不意にリキッドからキスをされた。
「ン――、何だ?」
「……別のこと、考えちゃ、ダメ」
「リッちゃんのこと考えてたンだがなァ」
拗ねて尖らせた唇に笑いながらかぶりつき返す。そうしながら部屋の照明を少し落とした。もちろん、明るくない方が、リキッドが乱れるであろうことを見越して。
「ンッ、う……ふ、ぁ、あアッ」
「ガチガチだな、一回出しとくか?」
「あっ、ア、そんないっぺんに、さわ、触っちゃ―……!」
腹を打つほどに勃起しきったリキッドの欲塊。先走りの伝う幹を擦り上げつつ、その下にある袋も刺激してやり、更にはその奥、後腔にも指を這わせた。
両手を使って前後を責められ、リキッドは早々に訪れた過度の快感に耐え切れなかったのか、いくらもしないうちに射精をした。
「んあっ……やだ、待ってまだ、ま、……ひあ!」
腹の上に散った精液をすくい、ふにふにと触れるだけだった後腔に今度こそ指を捻じ込む。初めから二本。慣れた体はそれをすんなりと咥えこみ、もっと飲み込もうと内壁がうねるのが分かって喉の奥から笑いが漏れた。
「上の口じゃあヤダヤダ言ってても、こっちは積極的じゃねェか。めちゃくちゃ熱くて火傷しちまいそうだ」
「や、やっ、掻き回すなぁ……ッ! んっ……あ、おと……音やだっ、これ、いやぁっ」
「ローションいらねェくらい濡らしといて、よく言うぜ」
「ふああっ!」
奥まで入れていた指を、手首を返すようにして回しながら一旦引き抜く。それだけで盛大な水音が立った。
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