本棚1―2
□プレゼントは、貴方の
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【2013年リッ誕、ハーレム外見幼児化】
「ん…」
瞼越しに眩しい光を感じ、リキッドは意識を覚醒させた。
微かに身じろぐだけで鈍痛が腰を中心に広がる。日付が変わった辺りから散々ハーレムと体を重ねていた所為だったのだが、それをねだったのは珍しく自分の方だ。
「誕生日だからってはっちゃけ過ぎたかなァ…、あー…だる…」
もう少しだけ眠っていよう。幸いハーレムもまだ起きていないようなので、そう決めたリキッドは腰が痛まない姿勢を探してころりと寝返りを打った。が。
「…へ…?」
――…夢を見ているのか?
そう考えたリキッドは己の頬を抓ってみるが、痛みは感じる。つまり夢ではない。
だとしたら何だ。
ハーレム――…らしき小さな子供がリキッドの隣でスヤスヤと寝息を立てている、この、光景は――
「――…っえええええ??!!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
結論から言うとその子供はハーレムで間違いは無かった。それも頭の中身はそのまま、体だけが子供になっていたのだ。
「あの…隊長、心当たりは」
「ンなもん1人っきゃいねェだろ」
「ですよねー…」
隙あらば他人を実験台にしようとするマッドドクの満面の笑みを思い浮かべながら、リキッドはブリーフィングルームのソファに座るハーレムの様子をこっそりと窺った。
「アイツいっぺん真正面から思いっきり眼魔砲ブチこんでやる。…いやグンマのアルバム燃やした方が早ェか…?」
歳の頃は5、6歳だろうか。
あちこちに跳ねた妙に中途半端な長さの髪がふっくりとした頬を縁取っている。とりあえずと羽織らせたリキッドのパーカーからは細く頼り無げな手足が伸び、見事だった体躯は見る影もない。
まさに「幼児」という表現がぴったりの容姿で、しかしそれにそぐわない物騒な内容をブツブツと呟いている姿は中々にアンバランスで正直不気味でさえある。
ただ、その透き通るような青い瞳だけが、この幼児はハーレムなのだと知らしめる唯一の輝きで。
「そーれにしてもまァ、随分可愛くなっちゃったもんだねェ隊長ってば」
「あっ、バカロッド!」
「いってェ!!」
止める暇も無かった。
テーブルの上にあった空のアルミ灰皿が宙を飛び、ロッドの額にクリーンヒットする。
今のハーレムに「可愛い」は禁句なのだ。既にリキッドも一度その小さな拳を腹に喰らっている。
(余り痛くなかったのが救いだ)
「おいたしちゃ駄目デショ」
「ガキ扱いすンじゃねェよ!」
何と、あろう事かロッドはめげるどころか更にハーレムをいじりだした。後々喰らうであろう制裁よりも、今目の前にある魅力的な事象を楽しむことの方が大事と決めたらしい。
「悪い事するのはこのお手手ですかァ」
「うわっ、コラやめろバカ…!」
言うが早いか小さくなったハーレムの体を片腕で抱え上げ、もう片方の手でその小さな手をまるで操り人形か何かのようにブラブラさせる。
はた目には兄(父?)が幼児と微笑ましく遊んでいるように見えなくもないが、如何せんハーレムの顔が引きつっているのがどうにも気の毒過ぎて、止めるためにリキッドは立ち上がった。
「いい加減にしろよロッド!隊長嫌がってんじゃねーか!」
「そーんな事言ってェ、リッちゃんもホントは羨ましいんじゃないの?」
「うっ、羨ましくなんか――!」
――無い、と言い切れない自分の正直さが憎らしい。
頬を桃色に染めて暴れているハーレムをちらりと見ると、確かに可愛いのだ。愛らしいと言っても良い。
しかし同時に言い知れぬ不安を感じた。
多少容姿は違えど、ハーレムであることに変わりはない。なのに別人であるかのような錯覚を起こす。
そんな馬鹿な考えが過ぎってしまうこと自体に、リキッドは不安を感じていた。
「何を騒いでいる」
「げ、もう戻って来ちゃったの」
本部に居るはずの高松と連絡を取る為に通信室に籠っていたマーカーと、「今の隊長にも着られる服を作る」と――半ば嬉々として――自室に引っ込んでいたGとが同時に姿を現した。
「離しやがれこのイタ公!!」
「あ痛ーッ!!」
ガツンと音がしたので慌てて視線をロッドとハーレムに戻すと、二人とも頭を抱えて丁度床に座り込むところだった。どうやら暴れに暴れたハーレムが、ロッドに頭突きを喰らわせたらしい。
「い…ってて、今のは効いたー…」
「だ、大丈夫っすか隊長?!」
ロッドなどには目もくれずハーレムのそばに駆け寄ったリキッド達は、三者三様、その姿に瞠目した。
大きな瞳にぷくりと涙が溜まっている。
予想外のダメージだったのだろう、小さく震えながら歯を食いしばっている姿は余りにも痛々し過ぎて。
「ロッド貴様…炭すら残さん」
「待ってマーカー俺がヤる」
「では誕生日の贈り物という事にしておいてやろう。好きに料理しろ、坊や」
「え、ちょ、待って待って俺も結構痛かったんだケド?!」
「うるせェ喰らえ電磁波ァー!!」
「ギャー!!」
飛空艦が揺れる程の衝撃と共に、黒焦げのロッドが一丁上がりだった。死にはしないだろう。多分。
「……ふ、っ…」
「え…、た、隊長?!」
我に返ったリキッドの目に飛び込んで来たのは、顔を隠すようにしてGの足元にしがみ付いてるハーレムの姿だった。
「…ハーレム隊長………?」
Gが穏やかに名前を呼びながら、その小さな体をふわりと抱き上げる。
ついに涙が零れ落ちてしまったのだ。そんなコントロールすら利かない体に苛立つのか、悔しいのか、嫌々としきりに頭を横に振る様子が居たたまれない。
「ドクターの話に依りますと、ほぼ1日程度の効果しか無いそうです。…もう暫くのご辛抱ですよ隊長」
心なしかマーカーも戸惑っているようだが、その声音はひどく優しい。
「…本来ならリキッド、お前が幼児になっている筈だったそうだ」
「へっ?!」
突然自分へと話を振られて思わず素っ頓狂な声が上がる。
聞けば、飲むと子供になる(であろう)薬はリキッドが大好きだと公言してやまない某ヒーローブランドの菓子に仕込まれ、補給の際に紛れ込まされていたらしい。
「それをまさか、お前でなく隊長が口にするとはな」
「あー…そういや隊長がくれたお菓子の中にそれ、あった気がする。でも俺、食う前に酔っぱらっちまって…そんで、えーっと…」
後はお察しくださいと言わんばかりにリキッドの顔がかあっと熱くなる。
甘い菓子よりも美味いワインよりも、隊長が欲しい――などと宣い散々体を重ねた夜の記憶が生々しく蘇ってきて、現状幼児になっているハーレムの方をまともに見れそうに無くなってしまった。
「………とりあえず移動しよう。隊長が…」
「流石に疲れてしまわれたか」
「うわ、可愛い…」
思わず禁句を呟いてしまったリキッドだったが、Gの腕に抱かれたハーレムはいつの間にやら眠ってしまったようで、聞かれずに済んだ事に安堵した。
――同時に、ほんの少しだけGに嫉妬する。
それが独占欲なのだという自覚も無いままに、リキッドは歩き出した2人の後を慌てて追って行った。
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