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□Garnet
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++jewel++

Garnet【石言葉:真実】



「たいちょー、かーんぱぁい!」

「ギャハハ!リッちゃんソレ何回目ェ?」

「……7回目か?」

「8回目だ、くだらん」

「ったく誰だァ?リキッドに飲ませまくったヤツはよォ」


その主犯は勿論、ハーレムだ。
各々が心の中で「アンタだよ」とツッコミを入れている事だろう。

新年会と称して始まった、だがいつもとほぼ変わらない飛空艦での酒盛りは宴もたけなわ。時刻も丁度真夜中に差し掛かり、そろそろお開きかという頃合いだった。


「たいちょお、かんぱいはァ?」

「…ハイハイ、かんぱーい」


そんな雰囲気にも関わらず、いつもなら嫌がる上に真っ先に潰れてしまうリキッドが珍しくこの有り様である。

潰れてしまってはこの面白いオモチャで遊べないからと、全員が気を遣うフリをして途中ジュースを与えたりしながら、ゆっくりと酔いが回るよう仕向けたのが逆にいけなかったらしい。

乾杯の音頭に棒読みで応えながら、ハーレムは「この絡み酒め」と、己の事を棚に上げつつ頭を抱えたくなった。


「っつーかもう、そンぐれェにしとけ」

「隊長はなに飲んでんの?」


ひとの話を聞け――と喉まで出掛かったハーレムだったが、もう色々と面倒だと言わんばかりにリキッドが持っていたグラスを取り上げる。


「あ、まだ――…ッ、ん、う?」


そのままグイと引き寄せ唇を重ねた。
だけでなく、歯列を割り、舌を捩じ込んで思うさま。好きに勝手にと貪って。

そうして気が付けば、察しの良い部下たちはいつの間にやら宴の席から姿を消し、ブリーフィングルームは飛空艦のエンジン音と微かな空調の音でほぼ占められていた。


「ン、あ…」


長らく蹂躙していた舌を解放すれば、途端に甘い息を吐いて脱力したリキッドをそのままソファへと横たえる。

酒で潰れないなら、別の――ハーレムが楽しめる――方法で潰すまでだ。そう思いながら惚けた顔をしているリキッドに覆い被さり、今度は頬へと口付けた。
まだ少し子供くさい柔らかなその感触を唇で楽しみ、次いで舌先で舐め上げる。


「酒入って血の気増えたからか、今日は妙に目立つな。この傷痕」


いつもは何も言わないが、いつもそうするようにリキッドの頬にある傷痕を舌でなぞる。
すると微かに、本当に微かにだが、リキッドの体が強張った。



この傷はハーレムがリキッドと出会った時には既に刻まれ残っていた。

(何があった…?)

何度もこうして直に触れてきた。その時は何でも無かった。
だが今日初めて言葉で触れ、この反応。
己が知らないリキッドの過去を垣間見た、そんな気がした。



リキッドが体を強張らせたことに気付かないフリをするのは容易いことだ。
むしろこの子供自身、そういう反応をしていることに気付いていないかもしれない。


「たい…、っ、ん…!」


そんなことを、このほんの数瞬の間に考えながら再びリキッドに口付ける。
そうしながらテーブルの上のグラスへと手を伸ばし、キスの合間にその中身を口に含んでは、リキッドに口移しで与えた。


「うめェか?」

「…ン、ぁ…まい…」

「レミーマルタンっつーんだぜ。お前、俺が何飲んでんのかさっき聞いてたろ?」


少し甘みのあるそれは、ランクはそう高いものでも無いとは言えブランデー。アルコール度数は当然高い。

グラスに半分ほど残っていたアルコール全てを飲ませ終えた頃には、もうリキッドの意識は無かった――…



「…あーあ」


ハーレムが抱え起こすのに難儀するほど力の抜けきったリキッドの体を腕に抱き、何とは無しに愚痴めいた声をあげる。

顔を覗き込めば年相応あどけない寝顔のその頬に、アルコールが回ったせいか先程よりもくっきりと赤く浮かび上がった傷痕がやたらと目立つ。
これまで気にしたことも無かったのに、今は触れることすら躊躇われた。


「ちょい、調べてみるか」


己が知らないリキッドの過去。
ハーレム自身詮索したがる性質では無かった筈だが、どうにも引っ掛かっていけない。

部隊長として隊員の管理云々と、手前勝手な自己弁護を頭の中で繰り広げたハーレムは、その夜の内に行動に移した。
こんなヒヨコ頭でもあの合衆国大統領の一人息子だ、一般人とは違う記録の一つや二つあるだろう――そう考えて。



――だが予想は覆された



公的な記録からゴシップ誌に至るまで、団の諜報部が把握していたリキッドに関する記録を以てしても、何も無かった。

父親の外遊に同行しただとか、ランドのある日本に留学しただとか、とかくアットホームな家族然とした記録の羅列ばかりがそこにはあった。
唯一スキャンダラスな内容だったのは、ハーレムがリキッドを攫った件だけだ。


「…しゃーねェなあ…」


無理やりに聞き出す、そういう選択肢は初めから放棄していた。
確かに気にはなるが、それ以上に傷付けてしまうかもしれないことの方が怖かった。
そう、怖かったのだ。

それだけ、傷痕に言葉で触れた時のリキッドの反応が微妙過ぎた。

直に触れても平気な傷痕。
言葉で触れると強張る体。

あれだけの傷が残る程の過去を受け入れ乗り越えたのか、わざと忘却してしまったのか、それとも本当に何でも無かったのか、とにかく図りかねた。だから。


「待ってやるよ」


大胆にも眠るリキッドの傍らで彼に関するデータを閲覧していたハーレムは、そう言いながらディスプレイの電源を落とした。


 ああ待とう。

  真実が、分かる時を。


【それは傷だらけのガーネット】

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