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□Perversion
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もし、
****がヤンデレだったら
Perversion
「リッちゃんソレ、また?」
「え?ああ、うん」
明け方近くまで飲んで(ついでにオネーチャンとイイコトもして)飛空艦へと戻ってきたロッドは、最近お馴染みになりつつある光景に思わず溜め息を吐いた。
「動くな。手元が狂っても知らんぞ」
「あ、ゴメン」
何処かしらに傷を作ったリキッドを、昼夜問わずマーカー(もしくはG)が手当てしているという光景。
傷の原因は任務、ではなく我らが隊長サマだったりする。困ったことに。
今回はどうやら目の辺りをやられたようで、切れたらしい左の瞼をマーカーがチクチク縫ってやっていた。
見ているだけで痛そうなのに、リキッドは平然としていた。
「今度は何したの」
「わかンねー、呼ばれて部屋入ったら酒瓶飛んできた。寝起きで機嫌悪かったんじゃないかな」
日も昇りきらない明け方から呼び出しといて、そりゃないだろう。
喉まで出掛かった言葉を引っ込めて「酒瓶くらい避けなよ」と言ってやると、「避けたらもっとヤバいもん」とリキッド。
ごもっとも、確かにヤバそうだとロッドは一人納得した。
リキッドと我らが隊長サマは相思相愛のコイビト同士というやつだ。
どちらからのアタックかは知らないが、気が付いたらそういう関係になっていた。
まあ、かっ拐ってきた上に給料のほぼ全額をピンハネまでして行動の自由を奪っている辺り、十中八九ハーレムがリキッドにベタ惚れなのだろう。
だがリキッドも満更では無さそうで、それどころかハーレムの後ろをヒヨコのようにピヨピヨ付いて回るもんだから、世の中分からないもんだと感心すらしていたのに。
そんな2人の関係がおかしくなったのはいつからだったのか。いや、もしかしたら最初からおかしかったのかもしれない。
些細な理由で暴力を振るい出したハーレムと、それをただひたすらに笑って享受するリキッドと。最早こちらの感覚が、おかしくなりそうだった。
「…ホント、分っかンないなー」
「何が?」
心底不思議そうな目を向けてくるリキッドを「何でもないよ」と煙にまいて、ロッドはワザとらしく欠伸をした。
「そういや、Gは?」
「隊長の部屋を片付けに行っている。…よし、終わったぞリキッド。包帯は小まめに換えて2、3日巻いておけ、いいな」
「うん。…ねぇ、ちょっと大げさじゃね?」
大げさなのは怪我の方であるから手当ては至極真っ当なものだと、この子供は思えないらしい。
マーカーが珍しく困ったような表情でロッドを見上げたが、肩を竦めて応えてやると、彼は諦めたようにリキッドの頭をポンと撫でるだけに留まった。
顔の半分を白い包帯で覆ったリキッドはこちらの気も知らないで、不思議そうに、でもニコニコ笑っていた。
「……リキッド」
「あ、Gさん!」
そこに現れたのはしかし、G1人ではなく。
「たいちょう」とリキッドの唇が動いたのを見逃さず、そおっと後ろを振り返れば、リキッドに痛々しい傷を与えた張本人が立っていて。
「リキッド」
ロッドは一瞬己の耳を疑った。
どうして傷付けた当人を目の前にして、そんな優しい優しい声で名前を呼べるんだろう。
そして何故リキッドは、笑いながら彼の元に駆け寄ることが出来るんだろう。
「わ…っ」
片目が塞がっているせいで遠近感が狂っているのかよろめいたリキッドを、当たり前のように受け止め抱き上げるハーレムの顔には、ロッド達が見たこともないような罪悪感に満ちた表情が張り付いていた。
そんな顔をするくらいならリキッドを傷付けなければいいのに。その場に居た全員がそう思ったに違いなかった。
少なくとも次の瞬間の、リキッドの顔に浮かんだ表情を見るまでは。
――リキッドは嗤っていた。
それはそれは楽しそうに。
おもちゃで遊ぶ幼子のように無邪気で、それでいておもちゃが壊れることをいとわない、残酷な笑顔だった。
嗚呼、そういうこと。
やっぱりロッドは一人納得して、マーカー達に肩を竦めて見せた。
縛り付けているようで、縛り付けられている。縛り付けられているようで、縛り付けている。表と裏、くるりと回って、まるでエッシャーの騙し絵だ。
まあ当人達がそれでいいなら放っておこう。
今度こそ本物の欠伸をしながら、ロッドは歩いていくハーレムの腕に抱かれたリキッドに「おやすみ」と笑って手を振った。
リキッドは物分かりの良さそうな顔でニッコリ笑い、「朝帰りも程々にね」と言いながら手を振り返してくれた。
薄暗い廊下。まだ、日は昇らない。
神サマ神サマ、
足元が崩れそうなんです