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□Happiness
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もし、リキッドとハーレムが
ちみっこ達公認の仲だったら
Happiness
「おじさんってさァ、信じらンないぐらい家政夫にベタ惚れだよね」
「僕らの教育に良くないぞ」
「ばァか、これでも気ィ使ってやってんだぞ?今だって押し倒すのを我慢して――」
「ハイ御代わり出来ましたよドンドン食ってくださいね、ってかしゃべれなくなるくらい目一杯頬張ってついでに喉に詰まらせちゃって下さいお願いします」
ダン!とテーブルの真ん中に置かれたのは、リキッド特製ハロウィンパンプキンケーキ。
ほのかな甘さと半熟のトロリとした舌触りが絶妙の逸品である。
「家政夫とおじさんがアイしあってることくらい周知の事実なんだから、別に照れなくても良いのに」
「僕らは今時の子どもだからな!」
「オイオイ、知識として知ってンのと体で知ってンのとじゃ全然違――」
「だーっ!!アンタもちみっこ相手に何言っちゃってんだッッッ!!わきまえて!?」
「オメーもキャンキャン吠えてねェで座れ」
「へっ…?」
無防備だった腕を引っ張ってやれば、ストンとハーレムの隣に腰を下ろす格好になったリキッドだったが、一瞬何が起こったか分からないといった顔で目をしばたかせていた。
ちみっこ2人はといえば、そんな大人のじゃれ合いもどこ吹く風といった様子で、早速目の前のご馳走に夢中になっている。
「おー、すっげぇ甘い匂いすンな」
掴んだままだったリキッドの腕を持ち上げて、その指を鼻先に持ってくると何とも言えず食欲をそそる香り。
本当にこの場で押し倒してしまいそうだと、ハーレムは楽しそうに口角を引き上げた。
「ば…っ、な、何すンすかッ」
「美味しそうだからってホントに食べちゃダメだよおじさーん」
「いま食べるのはケーキだけにしろー」
「そうそう、家政夫は夜のお菓子だからね」
「俺はうな●パイじゃねェ!!つかコレぶっちゃけイジメ?イジメなの?」
「イジメてなんかねェよ。なあ?」
「うん!」
「うむ!」
「もーいいです…」
無邪気な返事にガックリと肩を落としてしまったリキッドに、流石にからかいすぎたかと苦笑してケーキを一切れ口許に持っていってやると、無言で噛り付くのがまたそそられる。
そういう所作がハーレムを魅了してやまないのだと、いつになれば理解するのか。
目眩のする思いで咀嚼する様子を眺めていたら、己の作ったケーキの味に満足したのか、はたまた別の意味でかフニャフニャと微笑む始末だ。
「あーあー2人とも、ごちそうさま!僕ら遊びに行ってくるからね!」
「あ、ば、晩御飯までには帰ってくるんだぞっ?」
「帰って来なくてもいいぞォ」
「えー?どうしよっかなー」
それは他愛の無いやりとりだった。
だが次の瞬間、リキッドの表情がみるみる内に泣き出しそうなものへと変わったことに、その場に居た全員が硬直した。
「………め…っス……」
泣きそうなのを堪えているのか声は震えて小さく、今にも消え入りそうで。
「子供に"帰って来なくてもいい"なんて…冗談でも言っちゃダメなンすよ隊長…!」
「っ、あー…ワリィ…」
「ロタローも!ひとつ屋根の下の家族なんだから、ちゃんと帰って晩御飯食べるって言わなきゃダメ!」
「…はァい」
普段見せることのないリキッドの悲痛な表情は、傍若無人な俺サマと女王サマを素直にさせるのに十分な破壊力を持っていた。
「…え、と…」
「ロタロー、行くぞ!いっぱい遊んで帰れば、リキッドが作ったごちそうが待ってる」
「お菓子も、いっぱい作っとく、から」
「遅くなったら俺が食っちまうぜェ?」
「そんなのダメッ!パプワくん、早く行くよっ!いーっぱい遊んでくるから、甘いデザート用意しといてよねリキッド!」
「…ん、いってらっしゃい」
「気ィつけてなー」
バタバタと駆け出していく子供たちを、ようやく浮かべた笑顔で送り出すリキッドにホッとする。
ドアが閉まり、2人きりになったのを確認すると、ハーレムはそっとリキッドの体に腕を回して引き寄せた。
「…悪かったな」
「ホントっす…」
唇を尖らせてもっと文句を言いたそうにしながらも、すがるものを求めてかしがみ付いてくるリキッド。
何と無くあやすように背を撫でてやれば、余程気が昂っていたのか強張っていた体から、少しずつ力が抜けていって。
「隊長…」
「…ンだよ」
ふいに、泣きそうに潤んだ目に見上げられて危うく理性が飛びかける。
「…なんでもない」
「構って欲しいんだろ」
「ぅー…」
「変なとこで甘えただよな、オマエは」
今にも溢れ落ちそうな涙の滴を指の腹で拭い、目尻に軽く口付けると擽ったそうに首をすくめる様子に、ハーレムも目を細めて笑う。
「リキッド」
「はい…?」
「Trick or Treat」
「…あの…、夜まで、待ってください」
「ああ、期待しとく」
真っ赤になったリキッドの耳元で低く囁く。
今夜子供たちからリキッドを借りる為の言い訳を考えながらハーレムはそっと、その前菜のごとき唇をいただいたのだった――。
お菓子とイタズラ、
ああなんて幸せ!