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□Innocence
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もし、
ハーレムがちみっこ達から悪戯されたら


Innocence


「「とりっく おあ とりーと!!」」

「ワゥー!!」


ドアを蹴り開けるけたたましい音と共に、それはやって来た。


「………………はァ?」


競馬新聞片手にその闖入者を見上げれば、魔女に吸血鬼に、ゾンビ犬。
頭の上に目一杯疑問符を浮かべながら思わず間抜けな声で応えれば、全員に呆れ顔でため息を吐かれる始末で。


「やだなァ、おじさんってばその歳でもうボケちゃったの?ハロウィンっていう素敵なイベントを忘れるなんて、やっぱり四六時中お酒と煙草ばっかりの不健康な生活してるから脳が縮んじゃってるんだね。いいからアイドルなボクにお菓子貢ぎなよ、早くしないと訴えて勝つよ」

「はっはっは、魔女っ子なロタローはいつもより毒舌具合が冴えているな!」

「ワォン!」


――…さて、どうしたものか。

面倒なモン寄越しやがってと、ここにはいないちみっこ達の保護者に心の中で毒吐きながら、それでもハーレムは一応、辺りを見回した。

相手をさせようにも他の奴らは今晩の食材を獲りに行っているし、適当にあしらおうにも菓子など気の利いたものを置いている筈もなく、目に入るのは食べ散らかしたゴミや酒の空き瓶ばかりだ。


「さては、無いね?」

「ああ無ェよ。分かったならとっとと帰ってリキッドにねだりな」

「そうはいかん!」

「あア?」

「お菓子が無いなら、イタズラするのがハロウィンだもん!――行けチャッピー!!」

「っだぁああ?!」


次の瞬間にはゾンビに扮したチャッピーに飛び掛かられ、驚いた隙をついたちみっこ2人が飛び付いてきた。

こうなってしまうと、完全にオモチャだ。
下手に抵抗すれば凄惨な目に遭うのは常々目撃してきたので、面倒臭そうな表情は隠さないまでも、好きにさせてやることにした――…





…――そして数分後

す巻きにされて引き摺られていくくらい多少は覚悟していたが、
予想に反してハーレムはあっさりと解放された。

主に顔と頭の上を弄くられていたようだが一体何をどうされたのかと、手をやろうとしてロタローに止められる。


「取っちゃダメー!折角カッコイイんだから、珍しく!」

「珍しくって何だよ?!」

「まあまあ、そうたぎらずに。チャッピー、鏡!」

「ワウ!」

「…お?」


真っ先に目に飛び込んできたのは、顔に薄く施された隈取りの様な化粧。次いで、頭の上に乗った大きめの獣耳。
これはまるで…――


「へへ、ライオン〜☆」

「中々の仕上がりだぞ!」

「パプワくんのメイクの腕も凄いけど、家政夫もたまには良いアイデア出すもんだねー。ホント、すっごく似合ってるや」

「うむ」

「ちょっと待て、リキッドが何だって?」

「おじさんにはライオンが良いって」


聞けば2人とも、獅子舞ハウスを襲撃しても菓子を得られる確率は低いからと、初めからイタズラを計画していたらしい。

標的はハーレムのみ――普段から何だかんだで構ってやるからだろう――で、仮装させようというところまで決めたは良いが、肝心のモチーフが定まらない。
そこで付き合いの長そうなリキッドに聞いてみたら、件の答えが返ってきたという訳だ。


「アイツ…」


ここには居ないリキッドの顔を思い浮かべ、自然と頬が緩む。


「ねーねー、家政夫にも見せてあげに行こうよおじさん!」

「ンなこと言って、腹減っただけだろーが」

「リキッドにお披露目できるし、おやつも食べられる。一石二鳥だぞ!」

「へいへい。んじゃ、行くか」


立ち上がり、何の気なしに両手を差し伸べてやると2人は何故か、戸惑ったように互いに顔を見合わせた。


「どォした?いらねェのか?」

「…いいの?」

「いいに決まってンだろ、ホレ」

「わ…、おじさん手ェおっきいねー」


さ迷っていたロタローの手を取ってやれば、感嘆の声と共にまだ小さな手のひらで握り返してくる。


「オメーもだ」

「!」


ハーレムは更にそれを大人しく眺めていただけのパプワの手も、半ば強引に握ってやった。
ロタローと同じくらい、小さな手。
どんなに完全無欠の強さを誇ろうとも、まだまだ庇護を必要とする歳であることを再認識させられる。


「行くぞ」

「…うむ!」

「よォし、競争だよパプワくん!」

「望むところだぞー!」

「ちょ、ま、オイイィィ?!」


…感慨に浸っていたのがいけなかった。

こうしてちみっこ2人(+1匹)に引き摺られる羽目になったハーレムは文字通りボロ雑巾となる顛末を辿り、八つ当たりされたリキッドが暫く腰痛で寝込むことになったのは、また別のお話――。



ライオンは時として
子供にはいんです


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