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□Cigarette
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もし、
リキッドが煙草を吸いたがったら


Cigarette


「そんな美味いンすか、ソレ」

「――…あア?」


面倒なデスクワークの片手間に一服していたら横からそんな声が飛んできた。

生憎の悪天候続きで飛空艦を飛ばせず本部にカンヅメになっているハーレムは、本日すこぶる機嫌がよろしくない。
なのでその程度の何気無い一言にうっかり本気で凄んでしまい、驚いたリキッドが小さく「ごめんなさい」と呟き怯えるのを見て、はたと我に返った。


「…ソレ、整理し終わったか?」

「え…あ、ハイ。後は隊長の手元にあるヤツだけっス」


声音を平素通りに戻すよう努めながらそう問い掛ければ、フニャッと破顔する単純なリキッドに安心しつつ、うんとひとつ伸びをする。


「そォか。ならちっと休憩すっか」

「えええ、ここはフツー"なら一気に終わらせるか"でしょー」

「かてェこと言うなよマーカーじゃあるめェし。鬼の居ぬ間に何とやらだ、煙草がンな気になるなら一服してみっかァ?」

「あ…」


ひょいと箱とライターを差し出してやれば、戸惑った表情で受け取ろうかどうしようかと迷い出すリキッドがどうにも面白く、ハーレムは暫く様子を見ることにした。

リキッドはついこの間18になったばかり。
母国では煙草が解禁される歳だ。

意外にも元ヤンキーの癖して煙草に手を出したことは無いと、以前リキッドから聞いて驚いた覚えがあった。
幾らツッパっても破っていいルールとそうでないものがある。これは後者なんだと真剣に説かれて、ハーレムはガキだとからかおうとした口を大人しくつぐんだのだ。


「…やっぱ、いいです」

「イイ子だなァ、リッちゃんは。俺なんざ16から吸ってンぞ?」

「それって…イギリスの煙草解禁年齢じゃないスか。隊長も十分イイ子っスよ」

「ハハッ、そォだな」


――正確には少し違う。

ハーレムが煙草を吸い出したのは16歳で戦場に飛び込んでから、だ。
それがたまたまイギリスの喫煙解禁年齢だったというだけで、リキッドの言う"イイ子"とは意味が違ってくるのだが、ハーレムは何も言わずに笑いながら煙草を仕舞う。


「それに、俺は別に吸わなくたって――」

「――副流煙吸いまくりってか」

「ま、それもありますケド…」

「ッコラ危ねェ、火ィ着いてンだぞ」


ぽすん、と。

隣に座っていたリキッドの頭が肩に乗り、ハーレムは慌てて銜えていた煙草をリキッドとは反対側の手に持ち直した。


「俺、は」

「リキッ…」



文句を言おうと開きかけた唇に、柔らかい感触が広がる。



「俺はこの味の方が好き、です」

そう言いながら確かめるように己の指先を唇にあて、照れたように微笑むリキッドの仕種に不覚ながらも目を奪われた。


(全くこいつァ…)


そんなことをするから人を煽るのだといつになったら学習するのかと思う反面、いつまで経っても煽られてしまうこの、中毒性。


「…タチが悪ィ」

「ン…っ」


ハーレムは逸る心を抑え付けるかのように煙草を灰皿で揉み消すと、リキッドの体を引き寄せその薄く開いた唇に吸い付いたのは、言うまでも無い――。



(好きだけど、やっぱ苦いっス…)


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