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□Purity
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もし、
特戦みんなで花見をしたなら
Purity
補給に立ち寄った、とある支部の一角で。
ちょうど桜が満開だ、なら花見だ飯だ、いや酒だと昼間っから始まった宴席にも、いつの間にやら夜の帳が降りていた。
「あっれェ?隊長ォ、静かだと思ったら、リッちゃん寝ちゃってるよー」
「あア?」
酔いが回って妙に間延びしたロッドの声を聞いて肩越しに振り返れば、なるほどスヤスヤと寝息を立てているリキッドが直ぐ後ろに転がっている。
つい先程までは酔いも手伝ってか、臆しもせずにこの長い髪を弄くって遊んでいたと思ったのだが、未だ酒慣れしていないお子サマはとうとう睡魔に負けてしまったらしい。
「寝かしとけ、無礼講だ」
「隊長やっさしー!んで、俺も眠ーい!そォだマーカーちゃん、膝枕してよォ」
「燃え尽きろ」
「んぎゃーッ!!」
「…仲間割れは良くない。…うぅ…」
こっちはこっちで何をやっているんだか。
笑い上戸が怒り上戸に燃やされて、それを止めようとしして叶わなかった泣き上戸が号泣している。賑やかなことだ。
「うっせーぞォ。向こう行って殺れやマーカー、桜が燃えちまうだろ」
「解りました」
「えっ、俺ってば桜以下?」
「…確かに桜が燃えるのは良くない…」
「ちょ、嘘、隊長助けてえぇぇ…!」
それがロッドの最後の言葉であった。
――という冗談はさておき、マーカーとGに引き摺って行かれたロッドの悲鳴を肴に、手酌でチビチビと酒をあおりながら頭上の桜を見上げる。
いつ顔を出したのか、明るい満月を背負った満開の桜は、それはそれは美しかった。
「…っくしゅ」
ボンヤリそれを眺めていたら、背後から小さなクシャミの声。
「リキッド?」
起きたのかと体ごと振り向く。だがリキッドは未だ夢の中だった。
ただ夜気と酒で冷えてしまったらしい、猫の仔か胎児のように丸くなっている。
「…ったく」
上着を脱ぎ、しかし掛けてやるだけでは寝そべっている地面から体温を奪われるかと暫し悩んだ挙げ句、起こさぬようにそっと抱き上げて膝に乗せた。
左の腕でリキッドの背中を支え、頭を肩に乗せてバランスを安定させてから、脱いだ上着で冷えた体をくるむ。
こうまでされて目覚めないとは、軍人としてどうなんだと叱責するべきか。
それとも自分を信頼しきって全てを預けてくることに、喜ぶべきか。
そんな事を考えながら、ふと眠るリキッドをあやすように体を揺らしていた己に気付き、苦笑しながら再び頭上を仰ぎ見た。
(結局はベタ惚れな俺の負け、だな)
見上げたままで探り当てたリキッドの手のひらを軽く握り、飽くこと無く桜を眺め続ける。
たまに夜風を受けて散り落ちる花弁。
それは見る者を何か暗示に掛けるかのように、はらはら、はらはらと。くるり舞っては地面に降って積もっていった。
「た…ぃ、ちょ…?」
「よォ。起きたのか」
キスも無しに起きるとは、せっかちな眠り姫も居たもんだ。
そう言ってからかってやっても、寝惚けた頭では意味を理解出来なかったらしい。フニャフニャと弛んだ表情のまま、肩口に摺り寄ってくる。
「何だ何だ、くすぐってェ」
「んー…あったかくて、きもち…い…」
耳元を、意図しての事では無いだろうがリキッドの吐息が擽る。体はこんなに冷えているのに、それは酷く熱く感じられた。
(…理性飛んでも知らねェぞ、おい…)
内心冷や汗をかきながらも、さてこの据え膳をどうするべきかと辺りを見回す。
何処まで行ってしまったのかマーカー達の姿は見えず、他に気配も全く無い。
「ハーレム、たいちょ…」
そんな時に、自分を呼ばわる甘い声。
見るなという理性の声を無視してそちらを見やれば、濡れた空色の瞳と視線がかち合う。この眼に、何度理性を飛ばされたか。
「ン…」
「んぅ、…っふ、あ…」
それでもこうして、たかが子供騙しのキスでさえ初な反応を示すリキッドが可愛くて堪らない。
(桜の花言葉は確か、そう、)
――純潔
(何度だって乱してやる)