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□Tamely
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もし、
リキッドが子どもになったら

Tamely



「効果は薬が体内で分解されるまで、つまり一晩経てば元に戻りますよ」


あっけらかんと言い放つ高松を、これほどブン殴ってやりたい!と思ったことが、かつてあっただろうか。


「ほーらリキッドくん、お菓子あげますからこっちにおいでなさい」

「…ふ、ぅえ…っ」

「完全にビビってんじゃねェか…」


こんな事になるなら、高松の所に使い走りなんてさせるんじゃなかった。
そう後悔しても、後の祭りとはまさにこの事だ。

何やら呼び出されて医局まで来てみれば、高松の怪しげな薬の実験台にされたリキッド…とおぼしき幼児が部屋の隅で泣き喚いているなんて、想像の範囲外にも程がある。


「せめて服をどうにかしてあげたいんですけどねぇ。見ての通り、手がつけられない」

「ったく、めんどくせェな」


隊服の上着だけで膝まで隠せるような小ささになっているということは、大体4、5歳位だろうか。

そんな幼児にあのレザーの隊服は、確かに重たそうだ。


「オラ、いつまでも泣いてんじゃねェよ。とりあえず着替え…ッ?!」

「こないでっ」


ツカツカと近付いて触れようとした途端、バチンと音がしてその手が弾かれた。

一瞬何が起きたか分からなかったが、よくよく見ればリキッドの周囲が帯電して仄白く光っている。


「手がつけられない、と言ったでしょう?能力は弱体化してはいますが、下手に触れると大怪我しますよ」


それを先に言え。
火傷で赤くなった手を擦りながら、高松を振り返って睨み付けた。


「……め、なさ…」

「あン?」

「ごめ、なさ…ぃ」


消え入りそうな小さな声に、視線をリキッドに戻す。


「別にお前に怒っちゃいねェよ」


どっこらしょ、とリキッドの前に腰を下ろして目線の高さを合わせてやると、泣き腫らした空色の瞳が心配そうにこちらに向けられていた。

さっきの「来るな」は怖いからではなく、危ないから来るな、という意味だったのだろう。


「…いたい?おじさん」

「痛くねェよこれぐらい。あとおじさんじゃなくて、ハーレム隊長」

「は、れ…?」

「あー…、隊長でいい」

「たい、ちょ?」


高松が思いっきり笑いを堪えているのを気配で感じたが、とりあえず今は放っておくことにする。後で纏めてブン殴ろう。


「たいちょ、ごめんなさい…」

「いいって。それよか、落ち着いたか?」


帯電の光が消えたことに気付いてそう尋ねると、コクリと縦に頭を振る。

せめて涙を拭ってやりたかったが、また怯えさせると厄介なので手を出さずにいたら、リキッドの方がおずおずとその小さな手を伸ばしてきた。


「…かみのけ、きれー」

「服、着替えるんなら触らせてやる」

「き、きがえる!」


単純だなこいつ。
面白くて、思わず吹き出してしまう。


「その服重てェだろうが。ほら、来い」


笑ったまま両手を広げてやると、つんのめるようにして飛び込んできた小さな身体。

それを抱き上げて立ち上がると、まだ笑いを堪えている高松を通り過ぎ様に蹴り飛ばして、部屋を後にした。


「たいちょ」

「ん?」

「だいすきー」

「!?」


頬に触れた柔らかい感触。

溺愛する、という感覚が、少しだけ分かった気がした――…。



(鼻血は、気合いでなんとか)

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