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□LuckyHit
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もし、
リキッドが歩けなくなったら
LuckyHit
医務室のベッドにうつ伏せに寝かされて、どれくらい経っただろうか。
「では、私はこれで」
「おう、悪ィなマーカー、朝っぱらから」
「構いません、起床してましたし」
頭上で交わされる会話も、足の先からの痛みのせいで殆ど頭に入ってこない。
「割れた瓶を裸足で踏むリキッドもリキッドですが、そも、隊長が自室をもう少し…」
「分かった分かった、以後気を付ける」
「全く、本当にお願いしますよ?」
ドアが開閉する音がして、ハーレムの気配だけが医務室に残る。
相変わらず足の裏はズキズキと痛むけど、いい加減、うつ伏せになっているのも苦しくなってきた。
「いっ…たあ!」
「コラ、急に動く奴があるか」
「だってぇ…」
そおっと身体を起こそうとして痛みに思わず悲鳴をあげたら、少し慌てたようなハーレムに制止され、不満の声が漏れる。
「この体勢、しんどいンすよ…」
「しゃーねえなァ、ったく」
「え、うわっ、」
何をするのかと思いきや、一息に横抱きにされた。しかも、医務室を出ていこうとしていて。
「わー!これ嫌だって!ハズい!」
医務室に担ぎ込まれたときも同様に横抱きにされて来たのだが、如何せん恥ずかしい。
さっきは早朝で誰とも会わずに済んだが、もう、そろそろ誰かと鉢合わせしてもおかしくない時刻だ。
特に、ロッド辺りに見られたら何を言われるやら。
なのに、ハーレムはさっさと医務室を後にしてしまった。
「暴れんな、落っことすぞ」
「それもやだ!」
「だったら大人しくしてろ、歩けねェ癖に」
ぐ、と言葉に詰まる。
確かに怪我をしたのは自分の不注意だけど、あんなところに割れた酒瓶を放置しておくハーレムもハーレムだ。
ベッドから降りた、直ぐのところなんて。
「ドジめ」
「うるせー…っ」
暴れたからか、増してきた痛みに歯を食い縛る。
「それにしてもお前、よく耐えたよな。見てて寒気したぞ、俺」
そりゃそうだろう。
足の裏一杯に食い込んだ細かいガラスの破片を、ピンセットで抉って…ああダメだ思い出しても痛くなってくる。
「って、あれ?部屋戻るんじゃないんすか?こっち行ったら外…」
「いーからいーから」
自分を抱えたまま器用に開かれた扉。
その、向こうには。
「う、わ」
「うわ寒ィッ」
吹き付ける朝の風は冷たかったが、それよりも目の前のデッキからの光景に釘付けになる。
昇ったばかりの朝日が海にキラキラと反射して目映く輝き、息を飲むほど美しい光景が、そこには広がっていた。
「すげー…」
「だろ?」
ハーレムの誇らしげな声にふとそちらを見上げると、この白い光を映してなお、青く煌めく瞳と視線が合った。
惹かれるように、腕を伸ばす。
ハーレムの顔が、近付く。
目を閉じる寸前にハーレムが何事か呟いたが、それは風の音にかき消されて耳には届かなかった。
でもきっと、嬉しい言葉に違いない。
何せ、とても綺麗な笑顔だったから――…。
(怪我の功名、ってやつ?)