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□Substitute
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もし、
ハーレムが禁煙を試みたとしたら


Substitute



「暫くハーレムに近付かない方がいいよ」


さっき使い走りで訪れた本部の廊下で、偶然顔を合わせた総帥にいきなりそう言われた。

そんな偉い人相手にしどろもどろになりながらも理由を訪ねると、ドクターとの賭けに負けて、滞在している間は禁煙を言い渡されてしまったらしい。

しかも禁煙パッチまで貼られたとか。
ギャンブル下手な癖に、全く何をやってるんだか、あの獅子舞様は。


「ただいまー」

「遅ェ」

「ぅわっ?!」


ブリーフィングルームに戻ったら、各々出掛けて誰もいない筈なのに返事があって、飛び上がるほど驚いた。

しかも、近付くなと言われた要注意人物。
ソファからのそりと身体を起こす様子は、丸っきり獰猛な肉食獣だった。


「書類取りに行くだけだってのに、どんだけ掛かってンだ。あ?」

「ご、ごめんなさ…っ」


思いの外に強い怒気を孕んだ声と、冷たい視線に身体が竦み上がる。

でも、さして急ぐような用でもなく、遅くなった訳でもないのに。

ハーレムに突然責められたのが悲しかったのか、それとも悔しかったのか。
一気に、両目に涙が溜まる。


「――…ッぅ、」


泣くまいと必死に堪えたが、それはとうとうポロリと零れ落ちた。
書類を両手で抱えていた為に、拭うことも叶わない涙が次々と頬を伝う。


「……はぁ」

「…ッ」


ハーレムが、盛大に溜め息をついた。

直視することが出来ずに怯えてうつ向いたら、零れ落ちた雫が書類の入った封筒に染みを作っていくのが見えて。


「悪ィ…」


いつの間にそばに来ていたのだろう。
小さな呟きが頭の直ぐ上で聞こえて、気が付いたらハーレムの腕の中にすっぽりと収まっていた。


「悪かったよ、お前のせいじゃ無ェのに」

「…ばか、ばか隊長…ッ」

「へーへー。分かったから、もう泣くな。…襲うぞ?」

「襲うな!っ、あ?!」


手に持った書類を力一杯押し付けて身体を離そうとしたが、逆にその腕を掴まれて引き寄せられる。
そのまま、有無を言わさず口付けられた。


「ンぅっ!!…ッン、んー!!」


いきなりのことに頭も身体も着いていけず反射的に逃げようとするが、歴然とした力の差に敵う筈もなく。


「ふあ、ぁ…っ」

「は…、どーにも口寂しくてよォ…。ごちそーさん」


唇を離してニヤリと笑うハーレムが、憎たらしいったらなかった。

滞在期間はあと3日――…。



(俺の方が、もちそうにないんだけど)

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