LOG2

□十一月の涙雨
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(お題:彩街様より)





※原作完結後

「わー、降ってきた!」

南国の、それもこんな早朝には珍しい霧のような雨。
いつもより早くに目が覚めたからと、先に洗濯を済ませた途端にコレだ。
まだ寝ているハーレムを気遣って暫くは静かにジタバタしていたけれど、すぐに諦めた。
薄ら明るい空模様からして、どうせいくらもしないうちに雨はやむだろうし、その後はキツい陽射しが待っていることは容易に想像がついたからだ。

それよりも、もっとこの雨を堪能したくなった。
南国特有の強烈なスコールではない、柔らかい、優しいヴェールのような雨を。
「まだ朝御飯までだいぶ時間あるし、まいっか、ちょっとだけ」
そう一人ごちて、森の方へと足を向ける。
思った通りいくらもしないうちに雨はやんでしまったが、余韻を残した森の空気はいつもと違って見えた。
地面はほんのりと湿り気を帯び、濡れた葉からの木漏れ日は殊更に柔らかくて心地良い。
その場に立ち止まって、空を見上げながら深呼吸をひとつ。ふたつ、みっつ。
よし、と最後に気合いを入れ、くるりと回れ右をして家路につく。
「かーえろ」

昔は、雨が降るたび落ち込んでいた。
主に任務絡みでの、苦い記憶が脳裏を巡る。
雨のせいで視界が利かなかったり、電磁波のコントロールを失敗したりで、ミスを連発した。だから雨は、好きではなかった。
でも今は違う。
それは確固たる想い、信念を持ってこの島で生きているから。そして。

「なァんか、ご機嫌だな?」

彼が、居るから。

ようやく本領を発揮し始めようかという陽光をきらきらと弾く、金色のお出迎えに頬が緩む。
起きたばかりなのだろう、大きな欠伸をする様は寝ぼけたライオンそのままで。

そんな、まだ眠たそうなハーレムの寝癖を手櫛で軽く整えてやってから、リキッドはおはようのキスをした。
「すぐ、ごはん作りますね」

【さあ、しあわせな一日を始めよう】

――――――――――

『涙雨』(1)悲しみの涙が化して降ると思われる雨
    (2)ほんの少し降る雨

2の意味をこの歳で知ったので、なんとなく勢いでしあわせそうなの書きたくなりました。

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