LOG2

□Pisces
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zodiac


このところ俺はちょっとおかしい。
ううん、ちょっとじゃない。大分おかしい、気がする。

「リキッド」
背後から俺を呼ぶ隊長の声がいきなり投げ掛けられる。いつもと変わらない楽しそうな声。ああいう声音になるのは決まって悪戯を(俺にとってはイジメと紙一重だけれども)思い付いた時だ。
だから俺もいつも通りに返事をする――……つもりで、上手くいかなかった。
「っ、な、ンすか」
喉が引っくり返ったみたいな無様な返事。それでもぎこちなく、何とか振り返れば訝しげな顔の隊長。
当然だろう。こうして返事に失敗するのは、もう一度や二度じゃないのだから。
「……お前よォ、こないだから何か変じゃね?」
「そ、すか?」
「任務に出たく無くてウジウジしてるって訳でも無さそーだから、放っておいたンだがよォ……」
「ひゃ……!?」
突然、伸ばされた指先で触れられて素っ頓狂な声が出る。触れられたのは胸や首筋や、とにかくセクハラ紛いになるような場所でも何でもない、ただの肩だ。それだけでこんな。
「まるっきり、恋したての女だな。ほれ、映画とかドラマとかでよくある、意中の奴にちょいと指先が触れただけで『きゃー』とかなる感じの」
『きゃー』の部分がポーズ付きの裏声で、また真昼間から酔ってるのかこのオッサンはと一瞬呆気にとられたものの、意味を理解して俺の顔は途端にかあっと熱くなった。
だって、隊長とそういう関係になってから結構経っていて何で今更、でもその通りじゃないかともう頭の中はパニック状態だ。
「図星みてェだな」
「あ、う」
「おーおー顔真っ赤だ」
「あ……っ」
肩を掴まれぐいと引き寄せられる。顔が、めちゃくちゃ近い。そんな距離でくつくつと笑うひくい声。耳から流れ込んでくるそれが、トドメになってしまって。
「おい?!」
膝から、ガクリと力が抜ける。驚いた隊長が支えようとしてくれたものの、彼もこんなことになるとは思っていなかったようで、俺は結局ずるずるとくずおれてその場にへたり込んでしまった。一緒になって横にしゃがみ込んだ隊長が、何故だか困ったような顔をしている。
「まって、ください」
「何を」
「その、慣れるまで、まって」
「……神経過敏の乙女ヤローめ。俺様はそんなに気が長くないからな、慣れないなら慣らすまでだ、分かってンな?」
乙女ヤローって何ソレ変な単語、と思わず笑ってしまった俺の唇に。
「んうぅっ?!」
早速、隊長はかぶりついてきたのだった。



――――――――――

12月:魚座:神経過敏

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