LOG2

□Aquarius
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zodiac


黒焦げの死体。
ひとりは兵士で、腕の中には子供がふたり。
兄弟なのかそれとも赤の他人なのかは、今となっては解るはずもない。
それをリキッドはぼんやりと見下ろしていた。

かわいそうにな、とは思った。
この街はさっきまで戦場だった。戦火にまかれて彼らは命を落とした。それだけだ。
けれどリキッドの足は、その場からどうしても動いてくれなかった。

「中々戻ってこねェと思ったら。何やってンだ、リキッド」

ハーレムが道の向こうから歩き煙草でやってくる。街にとどめを刺した張本人だ。
いつ何処から武器を持った残党が涌いてくるとも知れないのに、ただの散歩をしているかのような軽い足取りだった。
(事実、本人は散歩程度にしか思ってはいないだろうが)

「……兄弟っすかね」

歩いてきたハーレムを一度見やり、すぐにまたみっつの死体に視線を戻す。

「さァな」

そっけない返事をしたハーレムは、しかし「あ」と小さく声を上げ、元は大きな建物だったであろう打ち崩れた瓦礫の側まで行くと突然しゃがみ込んだ。
ややあって立ち上がった彼の手には小さな花。
しかも、いくつも。
リキッドの隣まで来ると、それを死体の上から無造作にばらばらと振り撒いた。

何をしているんだろう。
気まぐれに花を手向けるくらいなら、はじめから殺さなければいいのに――。
一瞬そんなことが頭の中を過ぎったがすぐに打ち消す。
戦場を、殺す相手を、選んでいるのはハーレムではないからだ。ハーレムもまた軍人という己の役割を果たしているに過ぎない。

(もしかして)

リキッドは思う。
あれは、気まぐれなんかじゃない。ああして気をまぎらわせているのでは、と。
そう考えたら何故だか無性に、泣きたくなった。



――――――――――

11月:水瓶座:気紛れ

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