LOG2

□Capricorn
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zodiac


戦場から、子供を連れ帰ってしまった。
3歳くらいだっただろうか。なのに歩けず、言葉も話せなかった。ただ、怯えもせずニコニコと笑いながら、手を伸ばしてきたから。
その手を、俺は取ってしまった。

ひとりきりのブリーフィングルーム。
隊長たちはどこかへ行ってしまった。あの子を連れて。何も、言わずに。
「……ッ」
いっそ殴られた方がマシだった。
攻撃目標全破壊を掲げる特戦部隊が、戦場で敵方の子供を助けただなんて知れたらどうなるか、馬鹿な俺でも解る。特戦の名が地に落ちるばかりか、そこにつけ入られて、戦場に立たされる子供が増える。これまで以上にたくさんの子供が、死ぬ。
解っていた。
解っていてそれでも拾い上げてしまった命。
連れて行かれる時にすら笑って手を振ってきたから、俺は精一杯に笑って、手を振りかえしてそれっきり。
「ごめん……なさい……っ」
何も出来ない自分が。
弱い自分が。
情けなくて馬鹿みたいに立ち尽くしたまま、俺は暫く、声を殺して泣いた。

そうしてどれくらい経ったろうか。
「なぁに泣いてンだクソガキ」
呆れたような声が背中に投げつけられる。窓の外はすっかり暗くなっていて、慌てて声がした方を振り向いた。
「たい、ちょ……ッ」
もう泣いてなんかない――そう言おうとして失敗する。ずっと歯を食い縛っていたし、喉もカラカラになっていて中々言葉が出てこなかった。色んなことを考え込んでいた所為か頭も痛い。

そうだ、色々考えていた。
今日何も出来なかったのなら次はどうすればいいか、とか。
もっと強くなるには、とか。
でも結局ごちゃごちゃで、でも、でも、と。
ああ、答えが出ない。
だって考えたところであの子はもう。
「あの、子は」
「あ? 何だ、テメーあのガキが死んだと思って泣いてンのか?」
「思って、って……は? え……?」

隊長が何を言っているのか本気で分からなかった。死んだと思って? そんな、あの子がまるで生きているみたいな。
「ガキならそーゆーのが専門の機関に引き取ってもらったぞ。手続きが面倒臭くてよォ」
「そんな、だって、特戦の理念は」
「攻撃目標全破壊だな」
「だったら……!」
「あのガキは攻撃目標だったか?」
「そりゃ、敵地のド真ん中に居た、から」
「アレは迷い込んだ一般人だ。だから保護の対象になる。――そういう事にしといた」

その時の俺の顔は、隊長曰く「鳩がミサイル喰らったような顔だった」と後で聞いた。
どんな顔だよ、ソレ。

「〜〜ッ隊長!ありがとうござ、い、ってぇええ!」
「調子に乗ンな!」
ガツンと、脳天にゲンコツで一発。
「お前がその残念な頭で必死扱いて考えてあのガキを隠しながら連れてきたのは解った。戦場で向かってくる奴はガキだろうが容赦するなとは教えた、だが向かって来ねえ奴をどうするかまでは教えて無かった。だから今回だけは、これくらいで勘弁してやる。次からは――まあ次があるとは思えねえが、もっとうまくやれ。残念な頭でも考える事くれェ出来るだろ、解ったかクソガキ」
そして長々としたお説教を、頂戴した。
「でも殴られたら、もっと残念なコトになる気が、ちょ、ま、ぃ……ってぇってば!」
「だから調子に乗ンなつってんだろうが! ……俺だって痛ェよ」
手をヒラヒラさせながら、隊長が笑う。
俺もつられて笑った。

隊長はやっぱり優しい。
本人はそれを、頑なに認めようとはしないけれども。


――――――――――

10月:山羊座:石頭

リキッドはまだ弱いくせに頑固
隊長はなんだか頑固、その相乗効果


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